脳卒中のリハビリにHAL 歩く感覚を脳に伝える(2017.01)

代表者 : 鶴嶋 英夫  

鶴嶋英夫准教授

脳卒中の患者数は、全国で年間約100万人を超え、寝たきりになる原因の第1位でもある。このような現状の中、脳卒中が原因で起きる歩行障害のリハビリ治療に、下肢装着型ロボット「HA
L」==の単脚モデルを用いた臨床研究が鶴嶋英夫准教授(医学医療系)のもとで進められている。
 
脳卒中は、脳梗塞や脳内出血といった脳の血管に異常が起きる病気の総称。発症時に右または左半身にまひ症状が残る片まひと呼ばれる状態になり、後遺症として残る場合がある。片まひを起こした際にはまひを起こした側の手足も同時にまひするため、歩行障害が起きる。
 
片まひ状態の患者は、まひのある側の足の筋力が低下し、関節を保持したり、関節を曲げることも困難になるため、まひした側の足を引きずるように歩行をする。このような病態に対して現状の医療ではリハビリを行って、歩行練習をしている。
この歩行練習である程度は歩行能力が改善するが、既存のリハビリにも限界があり後遺症として歩行障害が残ることも多いという現実があった。
 
そこで鶴嶋准教授は、体を動かそうとする際に体内に流れる電気信号を読み取り運動機能を回復させるロボットスーツ、HALに着目。HALをリハビリに導入した臨床試験を昨年11月から始めた。
 
試験では、HALを装着した状態でのリハビリと通常のリハビリを比較。HALをまひがある足に取り付けることで内蔵されたセンサーとモーターで歩行を助ける。
 
また、歩く感覚も脳に伝わるため、通常のリハビリよりも歩行改善の効果があるという。
 
HAL装着のリハビリを導入することで、まひ後の歩行障害に悩まされていた脳卒中の患者が社会復帰を目指すことも可能になるという。
 
すでに、これまでの臨床試験で、通常のリハビリでは屋内歩行がやっとだった患者が、起伏のある屋外での歩行も容易になるまでに回復した例が挙がっている。
 
臨床試験が成功し、医療機器承認が得られれば、脳卒中後の歩行障害の新たな治療法が確立すると思われる。医療用のHALは難病に指定されている筋委縮性側索硬化症(ALS)や筋ジストロフィーなど8つの病気の治療で両脚モデルが既に使われている。

 
HALが社会復帰を目指す脳卒中患者に希望の光を照らす日もそう遠くない。(橋野朝奈=日本語・日本文化学類2年)
  
HAL=世界初の、体内に流れる電気信号を読み取って動くロボットスーツ。脳・神経・筋系の疾患患者の機能改善・再生医療や、介護現場での作業支援などを行う。筑波大発の企業「サイバーダイン社」が、世界的に事業展開を行っている。