乳がんとは(概論)
2016年4月10日 at 5:08 PM
乳がんとは?
女性に多い病気として知られていますけれども、男性にも生じる場合があります。
日本人の頻度と最近の罹患率
がんというのは日本人の2人に1人はかかるという風にいわれており、乳がんの罹患率、頻度というのは最近上昇してきていることがわかっています。
女性にとってみると、「乳がん→大腸がん→子宮がん」という順番でなりやすいといわれています。
乳がんの罹患率が高くなってきている理由としては「食事の欧米化」たとえば、肉食が多くなってきているということ。
女性の社会進出による晩婚化、未出産などもあげられています。
筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科
准教授 坂東 裕子 先生
罹患しやすい年齢は?
乳がんが発症しやすい年齢としては、45歳~55歳ぐらいにピークがあると言われています。
ですが、20代から80代まで、広い年齢層の方が乳がんになる可能性があります。
罹患率では群を抜いて1位であった乳がんですが、早期発見により、早期の治癒が可能になったこと、乳がんは予後が他のがんに比べると良好であることがいわれています。
アメリカやヨーロッパのほうが死亡率が日本に比べて高いとされていますが、最近は減少傾向にあるといわれています。
それに比べて乳がんの死亡率は、日本ではまだ低いものの、増加傾向が認めています。
乳がん検診について
検診
乳がんは「乳がん検診」で発見される場合、あるいは自覚症状などを基に、医療機関などの検査で発見される場合があります。
自覚症状としては「乳房のしこり」「皮膚の発赤やへこみ」「皮膚の引き連れなどの変化」あるいは「乳頭からの分泌物やわきの下のリンパ節が腫れてきた」といったような症状があげられます。
乳がんを見つけるための検査としては、触診のほかに乳房を板で圧迫しながらX線で撮影するマンモグラフィーや超音波の検査というのが代表的です。
筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科
准教授 坂東 裕子 先生
乳房にはがんだけではなくて、さまざまな疾患があります。
画像の検査を行って、しこりなどが認められた場合には、「良いものなのか?」「悪いものなのか?」の判断のために、必要に応じて病理学的検査を行います。
病理学的検査というのは、細い針を刺すせんし吸引細胞診や、太い針を刺す針生検や吸引式組織生検といった方法があります。
針を刺して細胞を取って、その細胞が「良いものなのか?」「悪いものなのか?」それを診て判断をしていきます。
診断が非常に難しいときには手術を実施して、確定診断に至る場合もあります。
乳がんのステージについて
筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科
准教授 坂東 裕子 先生
■ステージ分類
乳がんの進行度を表す指標として、病期いわゆるステージ分類があります。
TNM分類といって、3つの指標を基に、病気を分類していきます。
T分類:腫瘍の大きさ
N分類:リンパ節の転移が有るか無いかの状況
M分類:遠隔転移が有るか無いか
総合的に0期から4期迄に乳がんを分類していきます。この病気診断、進行度というのは予後と相関してきます。
0期の乳がんは非浸潤がんと呼ばれます。
非浸潤がんは乳がんの細胞が小葉内、あるいは乳管内にとどまっている、つまりごく早期の乳がんであり、理論的には転移はしないので手術や放射線治療といった局所療法のみで治癒が期待できます。
一方、がんが乳管をこえて浸潤発育しているがんを浸潤がんと呼びます。
浸潤がんは先ほどの病期分類では1期から4期に分類されます。
浸潤がんでは小さくても転移をしてしまう可能性があるために、将来の再発を予防する目的で、局所治療に加え、薬物療法の追加が検討されます。
治療の総論
サブタイプ分類と集学的治療
乳がんのもう一つの分類としてサブタイプ分類があります。
がん細胞の異型度、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2、Ki67といった臨床病理学的因子を用いて、大きく5つのサブタイプに分類します。
<サブタイプ分類>
1.Luminal A type
2.Luminal B type
3.Luminal/HER2 type
4.HER2 type
5.Triple Negative type
筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科
准教授 坂東 裕子 先生
しかし、最近では乳がん治療はサブタイプから治療戦略を展開するアプローチが標準となっています。
乳がんでは集学的治療が一般的です。
局所治療として手術や放射線治療があります。
一方、全身治療としててホルモン療法、抗がん剤、抗HER2治療などの分子標的治療があります。
0期から3期までの乳がんを原発性乳がんと呼びます。
原発性乳がんの治療目的は治癒です。
最大の効果を目指して、局所療法、薬物療法を適切に組み合わせて治療を実施します。
4期は遠隔転移のある状況であり、治癒は非常に困難です。治療の目的は生存期間の延長、QOLの維持、がんに伴う苦痛の緩和となります。 乳がんの切除といったものは積極的には推奨されません。薬物療法や緩和ケアが主体になります。
遺伝について
筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科
准教授 坂東 裕子 先生
原因となる遺伝子はいくつか明らかにされていますが、その一つとしてBRCA-1、BRCA-2遺伝子の変異による「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」というものがあります。
「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」の家系では、乳がんや卵巣がん、男性の乳がんなどが多く発症するといわれています。
「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」の診断は、血液検査で実施が可能ですけれども現在日本では保険適用とはなってはいません。
乳がんの診療は日々進歩しています。検診による早期発見や、温存手術、再建手術などによる、整容性に優れた局所治療の実施、そして、集学的な治療によって高い生存率も期待できるようなっています。
筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科
准教授 坂東 裕子 先生
- 乳がんの化学療法
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