乳がんの化学療法

乳がんの化学療法

2016年4月10日 at 5:09 PM

乳がんと薬による治療

乳がんは薬がよく効くがんとして知られています。
どんな薬をどう使うかは、3つの治療の目的によって変わります。

術前化学療法

手術前にしこりを小さくする

術後化学療法、術後内分泌療法

術後にからだのどこかに潜んでいるがん細胞を根絶

再発・転移の治療

最初から他の臓器に転移があった場合や再発を治療

 

筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科
講師 池田 達彦 先生

薬の種類と使用する薬の決め方

乳がんの性質に応じて薬を選択します。具体的には生検または手術によって得られた乳がんの細胞を検査して、ホルモン受容体陽性または陰性、HER2陽性または陰性に分類します。
 

筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科
講師 池田 達彦 先生

 

ホルモン受容体陽性乳がん

乳がんが、その細胞内に「ホルモンを取り入れるための口」であるホルモン受容体を持っている場合、女性ホルモンを取り入れて増殖する性質があります。
ホルモン剤を投与するとエストロゲンという女性ホルモンを取り入れられなくなり、がんの増殖を抑えることができます。

したがって、ホルモン受容体(エストロゲン受容体もしくはプロゲステロン受容体)を持っているかを病理検査で調べ、持っている乳がんにはホルモン療法を行います。
がん細胞のホルモン受容体陽性細胞の割合が多いほど、ホルモン療法の効果は高くなります。
閉経前と 閉経後では女性ホルモンが作られるところが異なりますので、使用する薬剤も異なります。

ホルモン受容体陽性乳がんに抗がん剤を使用するかどうかは、再発リスクを予測する因子を考慮して決定します。

HER2陽性乳がん

がん細胞表面にHER2タンパクを持っている乳がんは、増殖が盛んなことが知られています。
トラスツズマブは、このHER2タンパクにくっついて、がん細胞の増殖を抑えます。
したがって、がん細胞がHER2タンパクを持っているかどうかを調べ、HER2タンパクを持っている場合(HER2陽性乳がん)には トラスツズマブと抗がん剤を使用します。

ホルモン受容体陰性・HER2陰性乳がん

エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体、HER2タンパクのいずれも持っていない乳がん(トリプルネガティブ乳がん)は、ホルモン療法や抗HER2薬が反応する部分を持っていないため、これらの治療は行いません。
抗がん剤治療を行うことで対処します。

薬による治療の目的

乳がんに対する薬物治療の目的は、大きく2つに分かれます。

初期治療での薬物治療

再発率・死亡率を低下させるために行います。

再発転移治療における薬物治療

延命効果を得たり、症状を緩和することでQOL(生活の質)を向上させるために行います。

 

筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科
講師 池田 達彦 先生

初期治療での薬の治療

 

筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科
講師 池田 達彦 先生

再発予防効果が確認されている薬物療法は大きく分けて、抗がん剤、ホルモン剤、抗HER2薬である分子標的治療薬のトラスツズマブ(ハーセプチン)の3種類があります。

これらの薬を術前もしくは術後に使用するかどうかは、乳がんの性質と再発のリスクを考慮して決定されます。
ホルモン剤と抗HER2薬は、がん自体が持っているホルモン剤や抗HER2薬に反応する部分を攻撃するので、患者さんご自身のがんがこれらの性質を持っている場合にのみ使用します。

抗がん剤治療は主に注射で行い、3か月または6か月の期間で行います。

抗がん剤は全身の正常細胞にも影響を与え、吐き気、脱毛、白血球減少などさまざまな副作用を起こす可能性があります。副作用の出方や程度は薬剤によって異なり、個人差もあります。
よって抗がん剤治療はその目的と副作用のバランスを考慮しながら行うことが大切になります。

ホルモン剤は注射または内服で行い、閉経前では抗エストロゲン薬(5年)に、場合によりLH-RHアゴニスト製剤(2~5年)を併用します。

閉経後ではアロマターゼ阻害薬もしくは抗エストロゲン薬(5年)を用います。
場合によっては10年のホルモン療法を考慮します。
ホットフラッシュ(ほてり)、生殖器の症状、関節や骨・筋肉の症状などが出ることがあります。

トラスツズマブは、1週間に1回あるいは3週間に1回、1年間点滴します。 
トラスツズマブは抗がん剤に比べれば副作用は少ないのですが、抗がん剤と一緒に使用することがほとんどなので、抗がん剤の副作用を回避することは困難です。
重い副作用として心臓機能の低下(100人に2~4人くらい)や呼吸器障害があります。

再発転移治療での薬の治療

初期治療と同様に抗がん剤、ホルモン剤、分子標的治療薬の3種類がありますが、使用可能な薬剤はよりたくさんの種類があり、一つの治療法を行って効果があるうちはそれを続け、効果がなくなってきたら別の治療法を行う、というやり方で進めます。

治療法は、
①がん細胞の特性(ホルモン受容体の有無、HER2の状況)、
②患者さんのからだの状態(閉経の状況、臓器機能が保持されているかどうか)、
③患者さんのご希望などを考慮に入れ、治療効果とQOL、治療によって得られる利益と不利益のバランスをよく考えて決めます。

 

筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科
講師 池田 達彦 先生

QOLを維持し、よりよくすることは非常に大切です。
まず、ホルモン受容体陽性の人は、ホルモン剤を使用します。HER2陽性の人は、トラスツズマブ(ハーセプチン)などの抗HER2薬を使用します。
それ以外の人や、ホルモン療法が効かなくなった場合は、抗がん剤による治療が適応になります。

これらの治療は基本的には外来通院しながら行います。副作用等にて問題があるときのみ入院となることがあります。
当院では患者さんが安心して薬物治療を行えるように外来化学療法室にて医師・看護師(がん化学療法認定看護師)・薬剤師らのチームで治療にあたっています。

 
プロフィール | Profile

筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科
講師 池田 達彦 先生

 
関連動画 | Movie

  • 乳がんとは(概論)
  • 乳がんの外科療法
  • 乳がんの放射線療法
日 付: 2016年4月10日
 

タグ: 乳がん, 池田達彦先生