乳がんの放射線療法
2016年4月10日 at 5:11 PM
乳がんにおける放射線治療の役割
術後照射
乳がんの手術に「乳房全摘」と「部分切除」があります。
「乳房全摘」は昔から行われてきた方法で、この手術でがんが取り切れていれば基本的には術後照射は不要です。
ただし、状況により必要となる場合があります。それは、腫瘍が皮膚に浸み込んでいた場合や、リンパ節転移が多く認められた場合です。
「乳房部分切除」は「乳房温存手術」とも呼ばれ、術後の放射線治療とセットにすることによって「乳房温存療法」となります。
昔は乳がんの治療といえば乳房全摘が普通でしたが、乳房を全部取るということは身体的にも精神的にも負担が大きいので、がんとその周りの一部分だけ切除する部分切除が試されてきました。
しかし、部分切除を行って乳房を残しておくと、約3分の1という高い確率で乳房内に再発することが分りました。
そこで、部分切除を行ったあとの残った乳房全体に放射線を足すことにしたところ、再発率も生存率も全摘術とほぼ同じになることから、部分切除術と放射線治療をセットにした治療を「乳房温存療法」と呼んでいます。
全摘術でも部分切除でも、リンパ節転移が多かった場合は、乳房だけでなく鎖骨の上のリンパ節の範囲にも照射が必要になる場合があります。
筑波大学附属病院 放射線腫瘍科
病院講師 沼尻 晴子 先生
筑波大学附属病院 放射線腫瘍科
姑息照射
腫瘍が大きすぎたり、リンパ節転移が多すぎたり、骨や脳など他の臓器に転移がある場合は、基本的には手術ではなく薬物療法で対応していくことになります。
その中で、乳房の腫瘍やリンパ節転移が大きいために何か症状がある場合、腫瘍を小さくするための姑息照射を行うことがあります。
姑息照射の「姑息」とは、「一時的に対応するための」といった意味で、あくまでも放射線治療は補助的立場となります。
他の治療とのバランスが重要です。
たとえば腫瘍が大きく皮膚を破ってジュクジュクしているような方でも、放射線治療を行ってジュクジュクや出血の症状を和らげて生活をしやすくする、といった手助けができますが、がんが完全に消えるまで制御することは難しいです。
緩和照射
乳がんの患者さんは、時に骨や脳などに転移を起こすことがあります。
転移を起こしている場合は、基本的には薬物療法が主役となってきますが、転移によって何らかの症状が出ているとき・または症状が起こりそうなときに、放射線治療によってその症状を緩和することができます。
たとえば骨転移の痛みや、脳転移による頭痛などです。
この場合も、放射線治療はあくまでも補助的立場ですから、他の治療とよくバランスをとっていく必要があります。
症状をとる治療としては、鎮痛薬や患部の安静など他にも方法がありますので、私たち放射線治療医(※)は患者さんを中心にして主治医の先生や緩和ケアの先生などとよく相談をして治療方針を決定しています。
※病院によっては、「放射線腫瘍医」という場合もあります。
筑波大学附属病院 放射線腫瘍科
病院講師 沼尻 晴子 先生
乳がんの放射線治療の流れ
筑波大学附属病院 放射線腫瘍科
病院講師 沼尻 晴子 先生
患者さんが放射線治療に紹介された場合、はじめは放射線治療医による診察・説明となります。乳房の傷を確認したりもしますので、上半身は脱ぎ着しやすいお洋服の方がよいでしょう。質問したいことは、事前に紙に書いて持っていくと安心です。
医師の説明で納得され、治療に同意された場合は治療の準備に入っていきます。
はじめの診察に続いて、治療準備のためのCTを撮影します。患者さんによって乳房の大きさや位置、体格もちがいますから、患者さんに合わせたビームをデザインする必要があります。そこでCTを撮影し、患者さんそれぞれの体型を把握しています。
この時には造影剤などは使いません。実際に治療を行う格好で撮影しますので、図のように腕を上げて固定して撮影します。また、この時につける印は「ここに治療します」という意味ではありませんが、CT撮影の基準位置確認のためですので、治療初日まで消さないように注意してください。
これで患者さんは治療初日まで自宅待機となります。
どの方向から、どんな形で、どんな強さでビームを入れれば一番効率よく安全に治療ができるか、コンピュータ上で試行錯誤しながらデザインしていきます。
出来上がった治療内容は、放射線技師や医学物理士などと一緒に検討していきます。
治療は、図のような台に乗って行います。
初日の治療は位置合わせから始まり、確認写真の撮影などありますので、治療のお部屋で30分程度過ごすことになります。治療に使うビームはX線と言って、レントゲンと一緒のビームですから、治療のときに痛みや熱さを感じることはありません。息を止める必要もありませんので、リラックスして待っていてください。
筑波大学附属病院 放射線腫瘍科
病院講師 沼尻 晴子 先生
術後照射の場合、25回~30回程度で治療するのが一般的ですが、最近ではもう少し強火にして16回程度で終了するようなスケジュールを使ってもよい場合があります。いずれにしても休まず治療することが大事ですので、もし旅行などの予定がある場合は治療の準備の段階で必ず医師と相談するようにして下さい。
放射線治療の副作用
治療期間中に起こる乳房の副作用の第一は、皮膚炎です。
メカニズムとしては夏の日焼けと同様ですので、照射した範囲が、照射した形に、色がついていきます。
治療が始まってから2、3週間してから、皮膚がだんだん赤くなってきます。
照射が終了するころがピークで、かゆくなったりヒリヒリを感じる人もいます。
この皮膚炎を軽く済ませるには、なにより皮膚への刺激を避けることが重要です。
皮膚をこすったり、何かを貼ったり剥がしたりすることはやめましょう。
皮膚炎がジュクジュクまで行ってしまう場合もあります。
下着やお風呂など、生活に関する注意点も守るようにして下さい。
その他の副作用については、図をご覧ください。
何か気になることがあれば、放射線治療医に質問してみましょう。
筑波大学附属病院 放射線腫瘍科
病院講師 沼尻 晴子 先生
筑波大学附属病院 放射線腫瘍科
病院講師 沼尻 晴子 先生
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