図書館情報メディア系 叶 少瑜(よう しょうゆ) 助教
今の時代、電子メールやソーシャルネットワークサービス(SNS)と無縁の人は、かなりの少数派でしょう。友人とのコミュニケーション手段として、ライン(LINE)やフェイスブック、ツイッターなどが広く使われています。それらを使えば、手軽に、しかも瞬時に大勢の人とのやりとりが可能です。それらのデバイスやメディアに子どもの頃から慣れ親しんできたデジタルネイティブである大学生を対象に、さまざまなコミュニケーションツールが、どのように利用され、それによって人々の間にどのような交流が行われるのか、それを解き明かすのが叶さんの研究テーマです。
自分自身がかつて留学生だった経験から異文化の視点を活かした研究をしている。
留学生の多さが筑波大学の特徴です。そこで叶さんは、日本人学生と留学生がそれぞれ行っているコミュニケーションを調査しました。すると、留学生の場合は国籍に関わらず、対面での会話とともに、音声通話もテキストメッセージも利用していました。それに対して、日本人学生は音声通話をほとんど利用していないことがわかりました。また、日本人学生と留学生とのコミュニケーションは、対面では日本語を使うことが多い一方で、テキストメッセージになると英語が使われるようになります。会話に自信がなくても、文字なら時間をかけてメッセージを作ることができるので、英語でのコミュニケーションのハードルが下がるのかもしれません。
日本人学生の異文化コミュニケーションに影響を与えるいちばんの要因は、意外なことに語学力や留学経験ではなく、社会的寛容性であるという結果も得られました。日本に来ている留学生は、もともと日本に関心があり、日本人と仲良くなりたいという意欲を持っています。そういう前提があるので、日本人学生は彼らに対して寛容になれることから交流が進みます。ただ、自分からはなかなか行動を起こせずにいます。なので、日本語や日本文化を学びたい留学生にとっては、日本人学生と積極的に直接対話する機会を作る必要があります。
コミュニケーションの特徴には性差もあります。一般に、女性の方がコミュニケーション上手と言われています。たしかに、男性は、悩みを打ち明けたり、助けを求めたりするなどの自己開示を避けがち。これは対面でもオンライン上でも、あるいは日本人に限らず共通しています。フェイスブックなどのSNS利用、対人関係などの社会的スキル、プライバシー保護や情報の真偽などに対するネット・リテラシー、この3要素の因果関係も調べてみました。すると、男性の場合は、フェイスブックへの投稿頻度は社会的スキルと関係せず、女性では、社会的スキルとネット・リテラシーとの因果関係が見られないという結果が得られました。これは、男性は他人のことが気になる割には自己開示をするような情報発信はせず、女性は社会的スキルが高くても情報の扱い方に対する意識は高まらないという傾向を示しています。叶さんは、このような分析結果から、情報教育における効果的なプログラムの指針を提案しています。
叶さんが研究を行う上で着目している関係内容の概念図
多様な情報伝達を容易にした通信デバイスの登場は、依存症という弊害も生んでいます。叶さんの研究によると、依存症になりやすいのは「シャイだが社交的」、つまり、対面によるコミュニケーションは苦手だけど独りぼっちはイヤ、という特性の人。対面せずに大勢とつながれるSNSにのめり込み、仲間がたくさんいる感覚を保つために、常にオンラインでのやりとりをせずにはいられなくなるのです。依存が深刻な場合、目の前にいる人にまでオンラインでメッセージを送ったりしてしまうのです。有効な対策はまだ見つかっていませんが、これからのデジタルネイティブ世代には、通信デバイスの使い方について幼い頃からの教育が不可欠なのは明らかです。
叶さんの研究の出発点は、マスメディアの報道が視聴者にどんな印象を与えるかということでした。ここ10年ほどの間に、情報通信や環境は大きく変化し、それに伴って研究の対象も次々と変わってきました。その流れは加速していくことでしょう。そのこと自体は悪いことではありません。しかし、どんなに技術が進歩しても、対面によるコミュニケーションは大切です。話し言葉と書き言葉の使い分けや、表情や身振り手振りなどの非言語情報こそが、豊かで誤解のない意思疎通をもたらします。新しい技術を活用しつつもリアルな対人関係を築けるようなコミュニケーションの追究が続きます。