人間系 原田 悦子(はらだ えつこ)教授
山口県生まれ。筑波大学第2学群人間学類卒。
同大学院博士課程心理学研究科を修了後、日本アイビーエム(株)東京甚礎研究所にて3年間研究員生活を送る(認知工学グループ)。その後、法政大学社会学部(認知科学、情報教育担当)を経て、2010年より現職。教育学博士。
専門は、認知心理学、認知工学、認知科学。人を対象とする研究は、(実験室的な)精緻な研究とフィールドでの「生きている人を観る」研究の両方を「車の両輪として」行き来をしながら進めていくべき、と信じている。
使いやすさとは何か
カップ麺の作り方やコピー機の操作など、簡単そうでも実際にやってみると意外とつまずくことがあります。また、技術的に完成しているのになかなか普及しないものや、不便だと思いながらも我慢して使っているものもあります。これは色形のデザインや説明書、あるいは慣れだけの問題でしょうか。
道具を使うには目的があります。目的を達成するために適した方法を提供してくれる道具が「使いやすい」と認識されます。認知科学では、人が試行錯誤しながらモノの仕組みを「理解」して使い方を習得する、と考えられてきました。しかし実際にユーザを観察してみると、むしろ直感的に問題解決をし、その中で自分なりの使い方を紡ぎ出しているようです。使いやすさの研究は、学習プロセスを解明することでもありますが、学習の成果は設計者が考えた「正しい使い方」とはまったく違うことも少なくありません。
また、年を取ると誰でも視覚や聴覚、身体機能が衰えます。今まで通りの日常生活を続けるにはより労力が必要、どうしても動作や判断も遅くなります。そのために周囲に迷惑をかけたり恥ずかしい思いをするのも心理的な負担となるので、そういった場面を避けようと、しばしば独自のモノの使い方を編み出しています。それは本来の設計にはなく、ユーザにとっても「使いにくい」ことになりがちです。若い開発者には想像がつかない使い方も起こるわけです。
みんなの使いやすさラボ
高齢者が使いにくいと感じる部分は、多かれ少なかれ若い人でも同じように使いにくいものです。つまり、使いにくさについては高齢者の方がセンシティプ。「みんなの使いやすラボ」(通称「みんラボ」)は、高齢者による使いやすさ検証実践センターとして、2011年10月に発足しました。「使いやすさ」をキーワードに、研究者・高齢者・企業の3者がともに活動し交流できる場です。
「みんラボ」の発足に伴い、ボラティアで協力してくださる高齢者を募ったところ、これまでに約230名もの登録をいただきました。元商社マンや農家など属性もさまざまで、とてもアクティブな皆さんです。使いやすさの検証実験に参加する他に、サイエンスカフェならぬ「みんラボカフェ」や工場見学、独自の「研究」プロジェクトなど、ユニークな活動を展開しており、海外からの見学や問い合わせもあります。
これまでに、ペットボトルやレトルト包装の開けやすさ、電動歩行車やタブレットの使いやすさなど、さまざまなユーザビリティを検証してきました。開発者が考える利便性は、必ずしもユーザのニーズとは一致しません。双方のコミュニケーションが使いやすさを向上せます。自分たちの意見が改良に取り入れられると、社会貢献の喜びにもなり、さらに活動が広がっていきます。