生命環境科学研究科 渡邉 信教授
ボトリオコッカス・ブラウニ(Botryococcus braunii:以下ボトリオコッカス)は,緑藻類に属する藻類で,淡水から汽水域(淡水と海水がまじり合った水の水域)に生息しています。10-20μmの径の細胞が集合し,30~500μmの大きさのコロニーを形成します。
多くの藻類が生産するオイルは「トリグリセリド(植物系オイル)」で,細胞内に蓄積していますが,ボトリオコッカスが生産するオイルは「炭化水素(石油系オイル)」です。細胞で合成された炭化水素は細胞外に分泌され,コロニー内に蓄積されます。ボトリオコッカス試料をスライドグラスにのせ,カバーグラスでおしつぶしていくと,細胞より分泌されコロニー内に蓄積されていた炭化水素がにじみでてくるのがみられます。
筑波大学で開発したボトリオコッカスは,増殖とオイル生産のバランスがよく,CO2が溶け込みやすいアルカリ性の環境で良好な増殖を示すのが特徴です。また,適度な濃度で有機排水(家庭・工業排水など)を与えるとボトリオコッカスの増殖が著しく促進され,弱光下においても高いバイオマス生産(注1)が得られます。現段階では,1年間で1ヘクタール当たり,およそ10トンのオイルをとることができると試算されますが,1ヘクタール当たりその10倍の量のオイルを生産できるようになれば,今の石油とほぼ同じ価格で供給できて,実用化に結びつくと考えられます。
現在,科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業により,オイル生産効率1桁増進を目指した技術開発を行っており,さらに文部科学省特別経費「次世代環境エネルギー技術開発研究拠点」により,筑波大学に藻類エネルギー技術開発の国際拠点を作ることを目的として,産学独連携および国際連携を推進しています。
(右図上)ボトリオコッカスの顕微鏡写真
(右図下)ボトリオコッカス培養の様子
(注1)家畜排せつ物や生ゴミ,木くずなどの動植物から生まれた再生可能な有機性資源のことをバイオマスといいます。(「バイオマス・ニッポン」本文より 農林水産省)