生命環境系 和田 洋 教授
生物の形態(*注1)はサルやウシ、人間など、哺乳類だけでも多様だが、これまでこれら形態の違いは発生(*注2)の時、全動物が共通に持つとされる「ホメオボックス遺伝子」の働きを受け、大まかに決まるとされてきた。だが、和田洋教授(生環系)は貝などの冠輪動物(*注3)の発生の場合は、これとは異なる遺伝子が影響することを発見した。
アコヤガイの遺伝を研究してきた和田教授は、当初はアコヤガイも人間と共通のホメオボックス遺伝子を持つ、という前提にたっていた。だが、ある時、アコヤガイにしかないホメオボックス遺伝子を発見した。
和田教授はこの遺伝子が発生の過程でどう働くかを確かめるために、冠輪動物を用い実験を開始。遺伝子を採取、染色し、この遺伝子の働き方を観察した。その結果、「SPILE」という遺伝子群が冠輪動物の初期の発生を制御し、これで組織の形成などが決まることを突き止めた。
「全動物が共通のホメオボックスを持つ」という説は、ショウジョウバエやマウスなどでの実験を前提としており、これまで冠輪動物ではよく分かっていなかった。だが、この発見により、それまでの説は覆された。生物の新しい発生システムが見い出された瞬間だった。
遺伝子は解明されていない部分が多く、冠輪動物の発生の全貌もまだ明らかでない。「発生の仕方が違っても、最終的に同じ形になる生物もあれば、同じ発生の仕方をしても、何らかの理由で別の形に変化する例もある」と語る。
和田教授は、今後も冠輪動物の発生の研究を進めていく。遺伝や生物の発生のメカニズムが完全に解き明かされる日は、すぐそこまで来ているのかもしれない。
*注1 形態=生物の形状や、体の構造のこと。
*注2 発生=生物学で、受精卵が成体へと育つまでの過程。
*注3 冠輪動物=貝などの軟体動物など、発生時に特有の細胞分裂を行う動物群。