研究成果のポイント
1. 信頼度の極めて高いゴキブリ目の系統樹を構築しました。
2. ゴキブリ目各グループの分岐年代や目内の固有の特徴(共生細菌や社会性等)の進化変遷を解明しました。
3. ゴキブリ目は石炭紀(3億年ほど前)に出現した古いグループではなく、およそ2億年前のペルム紀に出現して中生代に多様化し、現在の科が出そろったのは白亜紀(6600万~1億5000万年前)になってからだったことが分かりました。
概要
筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所の町田龍一郎教授と藤田麻里(現 筑波大学社会連携課SKIP事務局)を含む、世界7カ国、17研究機関の研究者20名からなる研究グループは、現生の66種の昆虫の約2,400の遺伝子を解析し、信頼度の高い系統関係を提出し、進化変遷を推論しました。
●網翅類(ゴキブリ目、シロアリ目、カマキリ目)の単系統性と、シロアリ類を内群とした広義のゴキブリ目の単系統性が強く支持されました。
●①ゴキブリ目とカマキリ目の分岐はおよそ2億6000万年前、②現生のゴキブリ目の起源はおよそ2億年前、③目内の各グループの分岐は、ほとんどの主要グループで白亜紀(1億5千万〜6千6百万年前)に起こったことが分かりました。ゴキブリ類は石炭紀(3億~3億6000万年前)から存在する太古の昆虫という定説を覆す結果です。
●現生のゴキブリ類の大部分が脂肪体細胞内に取り込んでいる共生細菌ブラッタバクテリウムは、窒素老廃物を利用可能な窒素へと変え、アミノ酸に変換して宿主であるゴキブリに供給します。この共生関係は、ゴキブリ目の共通祖先で一度だけ生じ、ホラアナゴキブリ科とシロアリ類への進化の過程で、それぞれに共生関係を失ったことが確かめられました。
●卵や仔の保護行動という観点から、ゴキブリ目内での社会性進化の三段階のシナリオが描かれました。①卵鞘による卵の保護、②卵鞘の保護(安全な産卵場所の確保、卵鞘の体内への引き込みと哺育)、③亜社会性のグループで見られる仔の保護の三段階です。キゴキブリとシロアリでは仔の保護に加えて「肛門食」による親から仔へのセルロース分解性微生物の受け渡しが見られることから、キゴキブリの亜社会性(一夫一妻と仔からなる家族構造)はシロアリの真社会性への前段階と考えられます。
*昆虫類全体の系統進化を明らかにしようとする「1000種昆虫トランスクリプトーム進化プロジェクト」(1KITE)の「網翅類サブプロジェクト」の成果。
掲載論文
【題名】 An Integrative Phylogenomic Approach Illuminates the Evolutionary History of Cockroaches and Termites (Blattodea) (統合的ゲノム系統学的手法が描くゴキブリとシロアリの進化)
【著者名】 D. A. Evangelistaほか19名
【掲載誌】 Proceedings of the Royal Society B doi.org/10.1098/rspb.2018.2076
【掲載日】 2019年1月23日
問い合わせ先
町田 龍一郎 (まちだ りゅういちろう) 筑波大学生命環境系 教授 (山岳科学センター菅平高原実験所)