幹細胞の定説覆す発見 がん化の解明へ光

生存ダイナミクス研究センター 佐田 亜衣子 助教

 人体の皮膚を始めとする臓器などの細胞は、元々は幹細胞という細胞が変化してできたものだ。iPS細胞もその一種だが、これまで体内にある幹細胞の分裂の頻度は低いとされてきた。細
胞が分裂した場合、細胞のがん化や老化につながるDNAの損傷などが起きるが、分裂頻度の低さはそれを避けるためと考えられてきた。だが佐田亜衣子助教(TARAセンター)らは分裂頻度が高い幹細胞の存在を発見。その成果は、老化やがん化の仕組みの解明につながる可能性が出ている。
 ノーベル賞を得た山中伸弥教授(京都大学)のiPS細胞は、患者自身の細胞から作られ、体内に移植した際に拒絶反応が起こりにくい点で画期的だった。一方、体内の幹細胞は、分裂を繰り返して臓器などに変化し、私たちの体の維持にはたらく。
 佐田助教はまず、マウスの表皮の細胞のうち、分裂頻度の高い・低いを分類。分裂が2日に1回のものを「高い」、5~7日に1回を「低い」とした。定説では、後者だけが幹細胞で、前者の細胞の役割はよく分かっていなかった。
 次に、佐田助教は前者の細胞の遺伝子を操作し、その細胞が赤く光るようにしたマウスを作った。そして1年後に観察したところ、マウスの皮膚の表皮全体が赤く光ることを発見した。これは分裂頻度が高い細胞が分裂を続け、皮膚細胞になったと考えられた。このような細胞も幹細胞の能力を持つことが分かった。
 佐田助教は現在、実験で得た結果を手がかりに分裂頻度が高い細胞が老化やがん化にどのように関与するかを研究している。「関与の仕組みが明らかになれば、老化やがん化の予防につながるかもしれない」と話す。いつまでも若々しい姿を保てる。そんな日が来るかもしれない。