医学医療系 小畠 真奈 准教授
つくば市は、若い家族が増える傾向にありながら、産科の診療所は減っていて、現在、お産のできる医療機関は3カ所しかありません。筑波大学附属病院はそのうちの一つとして、年間1000件程度のお産に対応しています。大学病院で出産と聞くと、深刻な問題を抱えたお産のようなイメージがありますが、ごく普通のお産もたくさん扱っているのです。小畠さんは産科婦人科医として、できるだけリスクの少ないお産ができるよう、妊婦の指導や診療にあたっています。
原則として、最低限の医療の介入で出産できるに越したことはありません。そのため、初期の段階での検査によってリスクが低いと判断された妊婦さんには、医師よりも助産師が中心となってサポートします。自分に合ったお産の方法をじっくり考えながら、子育てに向けた準備をしてもらうためです。そのための仕組みが「バースセンター」です。同じ大学病院内にありますが、妊婦さんへの対応のシステムが異なります。
(産科婦人科は、毎日何度も「おめでとう」と言える職場)
一方、妊娠・出産では思わぬことも起こります。もともと妊婦さんに持病がある場合や、妊娠中に発病したり、胎児に異常が見つかるケースもあります。症状によっては、内科や小児科、外科など他の診療科との連携が必要になります。その点で、大学病院での診療は、妊婦さんにとっても産科医にとっても大きな安心です。ただしその場合でも、患者が妊婦さんとなると、同じ病気でも薬の使い方などに気をつけなければなりません。産科婦人科と他の診療科との情報共有が重要となります。
妊娠とお産では、不妊治療や出生前診断など、長足の進歩を遂げている側面だけが話題になりがちです。しかしじつは、お産自体に関わる基本的な技術自体はそれほど変わっていません。帝王切開や吸引・鉗子分娩など、確立した技術が継承されています。なればこそ、その技術をいかに適切かつ安全に妊婦さんに提供するかが重要となります。さらに、難産や突発的な事態への対応の準備を怠るわけにはいきません。妊娠中のケアも含めて、医師やスタッフの力量が問われるところです。小畠さんは、妊婦さん一人ひとりの状態を注視しつつ、できるだけ経腟分娩、いわゆる「普通のお産」にこだわるという方針を守っています。病気や逆子などであっても、普通のお産で産む技術はあります。安易に帝王切開にすると、その手術に伴う妊婦さんの負担が増えるばかりではなく、特段の問題がないのに次のお産でも帝王切開になってしまいがちです。個々のお産がうまくいくことと同時に、医療全体としてそういった技術を継承していくことも大切なのです。
小畠さんは、祖父が二人とも外科系の医師だったこともあり、幼い頃は医師に対してかっこいいイメージを持っていました。必ずしも医師志望ではありませんでしたが、生物系か医学系か迷った末、何か資格を持ちたいと思い、医学を選びました。産科婦人科医になってから、早産を減らしたいという思いから、細菌学の研究室で感染症の研究で博士号を取得しました。体内にはいろいろな細菌がいます。普段なら感染しても何でもないのに、妊娠中だと話が別だったりします。症状が出ないせいで発見しにくい場合の診断法を確立することが研究テーマでした。現在の関心事は、リスクを持った妊婦さんがうまく出産を終えて子育てができるための、病院内や保健所なども含めたサポート体制作りを目指した研究です。バースセンターの整備や、医師間の情報共有などの仕組みづくりもその一環です。
医師という職業は女性に向いているというのが小畠さんの持論です。特に産科婦人科は、産科と婦人科にまたがっており、お産だけでなく、思春期や更年期障害の診療などバリエーションが多いので、医師自身の環境が変わっても続けていきやすい診療科です。もちろん男性には不向きというわけではありません。男女のバランスが取れているべきは、どの職場でも同じです。産科婦人科のいちばんやりがいのある点は、毎日「おめでとう」と言えることです。こんな職場、他にはなかなかありません。たとえ病気など何らかの問題を抱えた赤ちゃんであっても、生まれたことに対してはやはり「おめでとう」なのです。お母さんと赤ちゃんがいっしょに病院を後にする姿を見送ることが、何よりの励みです。
(エコー装置を用いた妊婦さんの診療風景(10年ほど前の写真))