図書館情報メディア系 鈴木佳苗 准教授
学校や職場での対人関係に悩んだ経験は誰にでもあると思います。学校での友人とのトラブルがいじめに発展し,それが常態化・悪質化して取り返しのつかない結果を招いた事例もしばしば報道されています。
一言でいじめといっても,ちょっとしたからかい,殴ったり蹴ったりすること,教室やネット上のコミュニケーションで仲間外れにすること,教室やネット上での悪口や陰口など,その内容や程度はさまざまです。しかし多くの場合,その発端は,友人関係の中で生じるコミュニケーションの行き違いです。うまく友人同士の問題を解決できない時に,相手を傷つけてしまう不適切な手段をとり,それにもともとの人間関係や学級の雰囲気など様々な悪条件が重なると問題がエスカレートしてしまいます。
関する研究を行ってきたことから,図書室には深い思い入れがある。
最近は子どもの発達と読書に関する講演依頼も多い。
鈴木さんたちは,2010年2月より「最先端・次世代研究開発支援プログラム」の助成を受けて,子どもたちがネットを利用している現状を踏まえつつ、現在のいじめを予防するための学習教材の開発に着手しました。教材は,大きく分けると,「いじめをしないために」(予防)と「身近にいじめが起こったら」(対策)という2つの内容から構成されています。予防としては,相手を傷つけないために,「お互いの立場や気持ちを尊重する態度」と「円滑なコミュニケーションの取り方」を学びます。対策としては,トラブルの相談にのる,友人や大人に相談する,傷ついた友人に寄り添うなどの行動の選択肢を提示し,子どもたちの個性や状況に応じた手段があることを学び,自分たちに何ができるのか,クラスで考えるきっかけを提供します。
現在,プロジェクトチームでは,中学・高校の先生と協力しながら,予防と対策のための授業プランを開発中です。子どもたちが,関心をもって授業に取り組めるように,シミュレーションゲーム形式の教材も作成しています。そのゲームでは,プレイヤーはクラスでの友人同士のトラブルに遭遇します。プレイヤーはそのときの行動を選択し,それに応じてストーリーがかわっていきます。プレイヤーが何もしないでいたり,不適切な行動をとると事態が悪化します。状況や行動のタイミングによっても結果が異なります。ここで重要なのは,自分にはいつ何ができるのかという選択肢のバリエーションを学ぶこと,そして最悪の行動が招く結末を知ることです。現代では,友人同士のコミュニケーションの手段としてネットも多く用いられるため,人間関係の問題だけではなくネット特有のリスクがあります。そのリスクについて理解し,ネット上でのコミュニケーションのマナーも学べる教材も開発しています。
この一連の教材はまもなく完成し,広く無償配布される予定です。利用者からのフィードバックを教材の改善に活かすことや,さまざまな授業プランを教員が共有する場(サポートサイト)を提供していくとのこと。教育者や保護者といっしょに,いじめ問題にみんなで取り組む新しい試みになりそうです。
(文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)