どのように銀河が誕生したのかーー。宇宙には渦巻銀河や楕円銀河など様々な種類の銀河がありますが、どのように生まれて現在のような姿になったかは大きな謎となっています。銀河が発見されてから90年経とうとしていますが、生命誕生の源である星を育む銀河の形成は謎のままです。その謎にもっとも迫る暗黒銀河を解明する挑戦を筑波大学 宇宙観測グループから始めます。

 

6月23日に、皆様の多大なご支援のおかげで目標額である1,000万円を無事達成することができました。改めて、感謝申し上げます。今後、開発、研究に全力で取り組んでまいります。残り日数が4日と非常に少なくなりましたが、電波カメラ実機1号機から南極望遠鏡での観測に向けて、素子数を更に増やし、より高い周波数帯を観測するための技術開発を進めるため、残り日数で200万円の追加支援を募集させて頂きたいと思います。

 

構想から約30年、地上で究極の場所「南極」に天文台を作る挑戦

 

ページをご覧いただき、ありがとうございます。筑波大学教授の中井直正です。現在、筑波大学宇宙観測グループでは「南極10mテラヘルツ望遠鏡計画」を立ち上げ、地上で最高の天文観測環境といわれる南極内陸部の高原地帯に、高精度の口径10m電波望遠鏡を建設し、宇宙の130億年以上先という非常に遠方を観測したいと考えています。

 

7割以上の星が未発見。行方不明の星を探しに行く

遠方宇宙は観測が非常に難しく、これまでの光の観測からは理論的に予想されている銀河の1~3割しか見つかっていません。しかし、テラヘルツ望遠鏡とそのなかで最も重要な観測装置である広視野超伝導電波カメラが開発できれば、残りの7割以上の行方不明となっている暗黒銀河を観測し、銀河の謎が解き明かせると期待しています。

構想から30年以上となる2024年の南極観測を目指した壮大なプロジェクトのスタート地点に今私たちはいます。広視野超伝導電波カメラの開発を目指し、私たちと一緒に宇宙と銀河の謎に迫りましょう。

資料を棚の奥深くに収め、一度は諦めた南極の調査

私が天文学を志したのは、小学生のときに姉が買ってきてくれた口径3センチの小さな望遠鏡に、自分で作った木の台を取り付けて月のクレータや惑星を眺めていたことがきっかけでした。紆余曲折を経ながらも大学で研究を続け、東京大学大学院で博士の学位を取得しました。

そして後年、国立天文台で働いていた1989年に、地上最高の天文学を実現するための場所として、初めて南極に出会いました。米国の若手研究者から南極内陸部の高原地帯は水蒸気が非常に少なくて天文の観測にはすばらしい土地だという手紙が長野県の野辺山観測所に届いたのです。

しかし同時に、手紙が届いたとき、次期大型望遠鏡計画として現在のアルマ望遠鏡に相当するプロジェクトを推進していました。そのため、南極の調査を始めていましたが、次期大型計画と平行して進めることは困難と判断し、1992年にやむなく中止、集めた資料のファイルは棚の奥深くに収めることになりました。

叶えたい天文学への想い「やはり南極しかない」

大学院生であった1983年に構想され、当初から参画していた次期大型望遠鏡計画は、2013年にアルマ望遠鏡として完成を迎えました。30年を費やして出来ることになりますが、私としては、望遠鏡予算が通った2004年に筑波大学に移ることが決まりました。

大学では、独自の研究ができますが、何十年も費やして解明されていく天文学の世界なので、この研究が人生の最後になるかもしれないと思っていました。そして、棚の奥から古びて変色した南極に関するファイルを取り出して、あらためて南極のすばらしさに感嘆しました。

「やはり南極しかない」と筑波大学で南極天文学を実現することを心に誓いました。一度諦めてから11年ぶりのことでした。

世界で最先端の技術を搭載した超伝導電波カメラの開発が進む

再び始めた当初も、極寒の地にこれまでで最も高精度な電波望遠鏡を建設するという計画は、実現性を疑問視する声が多い状態でしたが、しだいに望遠鏡技術と立地の革新性が高く評価されるようになりました。

暗黒銀河からの電波はアンテナで集光され、焦点にある超伝導電波カメラで検出されます。この超伝導電波カメラが暗黒銀河発見の心臓部ですが、開発は実験室での試作段階では成功しています。

次の段階は、望遠鏡に搭載して実際の観測に使用できる実機の開発で、2017年秋までに第一号機となる装置を開発製作し、国立天文台の野辺山45m電波望遠鏡(長野県)に搭載し、冬季に天体に向けて試験観測を行う予定です。その後、改良を加えて来年度冬季に本格的に銀河や天の川銀河等の観測を開始し、最終的に南極10mテラヘルツ望遠鏡に搭載することを目指します。

本クラウドファンディングで支援いただいた資金は、南極望遠鏡の検出の心臓部である広視野超伝導電波カメラの開発に向けて、その実機1号機として野辺山45m電波望遠鏡に搭載する電波カメラの開発経費のうちの大幅に不足する分になります。超伝導検出器のための多素子同時読み出し回路、超伝導検出器の基板や製作に関する物品、電磁界解析を行うソフトウェア、検出器の雑音等を評価する測定装置などで使用させていただきます。

さらに詳細な研究内容はこちら、資金使途はこちらからご覧ください。

銀河誕生の解明に重要な暗黒銀河。135億年の歴史の旅へ

暗黒銀河の解明に必要不可欠なテラヘルツ波やサブミリ波の波長の電波(電磁波)は、大気中の水蒸気に吸収されやすく、水蒸気が極端に少ない南極内陸部が地上で唯一の観測を可能とする場所です。そして、この波長の電波が観測できれば、はるか遠くの銀河も「見える」ようになります。

・テラヘルツ波(テラヘルツ THzは周波数の単位で、10^(12)へルツ、1THzは波長 0.3mm)

・サブミリ波(波長が 0.1~1mmの電磁波――0.3mm以下の波長はテラヘルツ波とも呼ばれる)

私たちが生きている地球は太陽のまわりを回っていて、太陽は天の川銀河の中の数ある星の中の一つです。私たちがいる天の川銀河の他にたくさんの銀河が発見されていますが、生命誕生の源となっている星が現在も活発に誕生している銀河や、100億年以上も前に星の誕生を止めてしまった銀河など、その性質の違いには多くの謎が残っています。

どのような過程をたどって私たちが住んでいる天の川銀河のような姿になったのか、天文学の新たな地平を切り開きます。

研究グループ構成員紹介

中井直正(筑波大学・教授・統括責任者)

専門は電波天文学で、南極望遠鏡計画を推進しています。第42回仁科記念賞、2008年度日本学士院賞等を受賞。

久野成夫(筑波大学・教授・アンテナ開発責任者)

専門は電波天文学で、主に銀河系や銀河の観測を行い、星間ガスからどのように星が生まれるかといったことを調べています。1997年、2011年日本天文学会欧文研究報告論文賞受賞。

新田冬夢(筑波大学・助教・電波カメラ開発責任者)

専門は電波天文学で、銀河を観測する電波カメラの光学系や超伝導検出器の開発を行っています。

渡邉祥正(筑波大学・特任助教・望遠鏡制御システム開発)

専門は電波天文学で、星形成領域や近傍銀河のガスに含まれる多様な分子を研究しています。

齋藤弘雄(筑波大学・研究員・データ解析ソフト開発)

専門は電波天文学で、星が密集して形成される星団の形成メカニズムに対する研究を行っています。

学外主要共同研究者

瀬田益道(関西学院大学・教授・ヘテロダイン受信機開発責任者)

関本裕太郎(国立天文台・准教授・電波カメラ開発)

徂徠和夫(北海道大学・准教授・分光計開発)

永井 誠(国立天文台・研究員・電波カメラ制御システム開発)

今田大皓(宇宙開発事業団・研究員・アンテナ光学系設計