「必要な睡眠量を決める遺伝子」特定への挑戦。睡眠に悩むヒトの未来を変える!

こんにちは。筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)機構長の柳沢正史です。

ヒトは人生の3分の1を睡眠に費やしています。ヒトに限らずハエや線虫に至るまで、脳を持つすべての動物が、睡眠という非生産的で無防備な状態に身を委ねています。しかし「なぜ私たちは眠らなければならないのか?」という本質は、未だ解明されておらず、私たちはそれを常に追求しています。研究機構では、約1万匹のマウスを使い、遺伝子レベルで「睡眠の根本」に迫る研究を進めています。

臨床医でありヒトを対象した睡眠研究を専門とする佐藤誠先生、精神科医でメンタルヘルスを専門とする松崎一葉先生とともに、今回の挑戦では、働く人を対象とした疫学調査から睡眠とメンタルヘルスの関係を解き明かし、さらには「ヒトそれぞれに必要な睡眠時間を決める遺伝子を特定する」プロジェクトを行います

私たちが必要とする睡眠量は個人によって異なり、それは遺伝子によって決まると考えられています。この遺伝子を突き止めることができれば、睡眠メカニズムの解明に大きく近づき、睡眠障害の治療法開発の可能性も広がります。個人の生産性を増やし、健康に生き生きと暮らすことができる未来へとつながるのです。

しかし、ヒトを対象にした研究は、未だ実績がなく未開拓の領域であるため、予算が不足しており資金不足で研究が思ったように進めることができません。皆様のご寄付により、研究を前進させ少しでも早く理想の未来に近づけたいと思っています。

「ショートスリーパー」にはなれない!「早寝早起き」が全ての人に良い習慣とも限らない。

世界には睡眠不足や不眠など睡眠障害に悩む人があふれています。睡眠不足大国・日本には、寝なくても大丈夫だろうとか、睡眠不足だけど普通に過ごせているとか、寝不足に自覚のない現代人が多くいることも問題です。

「寝る時間を削って働く」
「ショートスリーパーになる方法」
「短い時間で効率よく眠るには」

など、科学的根拠のないままに「短時間睡眠」を煽るような書籍や商品が販売されていますが、ほとんどの人にとって現実的ではないと言っていいでしょう。

また、「早寝早起き」が一般的に推奨されていますが、夜型や長時間睡眠者には辛いことです。早寝早起きは本当に健康に良いのでしょうか?

加えて、睡眠は心と身体の健康に重要ですが、まだまだ研究が足りず、わかっていないことも多いのが現状です。

今日の患者ではなく、明後日の患者を治したい。

そもそも私は、大学では医学部に進学したのですが、卒業のときに生涯で一番大きな決断をしました。「今日の患者ではなく、明後日の患者を治したい」と、目の前の患者さんを治す臨床医にはならず、研究者として基礎研究に専念することを選んだのです。

「現代神経科学最大のブラックボックス」と言われる、睡眠研究にのめりこむきっかけとなったのは、1998年、私が米テキサス大学で主任研究者として研究を行っていた38歳の時。偶然にも、脳内神経伝達物質「オレキシン」を発見したのです。この発見により不眠症の方々のための治療薬が開発され、世界各国で使用されています。

そして2016年、私たちは、睡眠をつかさどる2つの重要な遺伝子を見つけ出すことに成功しました。約1万匹のマウスに対して、1匹ごとに数十カ所のランダムな遺伝子変異を入れ、1匹ずつ脳波を調べて、睡眠に異常があるかを調べたのです。このおかげで、完全なるブラックボックスであった睡眠の謎を少しだけ解き明かすことができました(この研究成果は、世界で最も権威ある科学雑誌であるネイチャー誌に掲載されました)。

この発見をきっかけに、マウスを用いた睡眠研究は加速しているのですが、一方で肝心の私たち「ヒト」を対象とした睡眠研究についてはまだまだ未開拓です。

プロジェクト概要

科学的に信頼できる結果を得るためには、多くの人の睡眠を測ることが必要です。そこで働く世代約1000人を対象に、大規模な睡眠調査を実施します。被験者には、客観的に睡眠を測ることができる活動量計を、一週間装着してもらい、睡眠状況をつぶさに調べていきます。

これまでの研究の大半は、睡眠時間をアンケートで尋ねていました。そのことから、「測った睡眠時間」と「自分で思っている睡眠時間」は随分違っていることも判明しました。自己申告では「7時間眠れた」とあっても、実際の計測結果では4時間睡眠の場合もあったのです。この研究は、これまで言われている睡眠と健康の常識が、塗り替えられる可能性を秘めているのです。

具体的な研究工程について

3つのステップで研究を進めていきます。

 ① 疫学調査

客観的に睡眠を測ることができる活動量計とアンケート調査を用いて、約1000人以上の睡眠の客観データを蓄積していきます。そのデータを解析していき、睡眠状態(例:総睡眠時間、中途覚醒、主観的睡眠不足感等)とメンタルヘルスとの関連を明らかにしていきます。

 ② 臨床研究

疫学調査により、本物のショートスリーパーの特徴を持つ人(短時間睡眠でも足りており、休日も平日と比して睡眠時間が変わらない人)がいた場合、脳波計を用いさらに詳しく睡眠を調べていきます。その方の家族にも協力を得て、睡眠検査や遺伝子検査を実施することで、家族性のショートスリーパーを探します。

 ③ 基礎医学的研究

家族性のショートスリーパーが存在するとなれば、ショートスリーパーかどうかは遺伝子によって決まると考えられます。睡眠量を決める遺伝子については殆ど分かっていないため、②で見つかったショートスリーパーの方の遺伝子を詳しく調べることで睡眠量を決める遺伝子をみつけていきます。もし、遺伝子を見つけることができたら、睡眠の謎の扉を新たに切り開くことができるでしょう。

必要な金額について

本プロジェクトには、総額700万円以上の資金が必要となります。現在、大学や研究機関の関係者を中心に数百人もの睡眠調査をしていますが、1000人の睡眠調査を達成するためには、資金が300万円足りずクラウドファンディングの目標としました。

対象人数が増えれば増えるほど、より正確に社会の睡眠実態をつかむことができるようになります。しかし同時に、被験者のフォローアップを丁寧に行わないと正確な研究データを取得することができません。しかも膨大な量のデータ解析があり、多くの人員が必要となってきます。

また、睡眠調査により、働く人の睡眠実態やメンタルヘルスとの関連を調べることはできますが、「必要な睡眠量を決める遺伝子」をみつけていくためには、さらに400万円ほどの費用がかかります。ショートスリーパーの可能性がある方々、またその家族にもご協力いただき、遺伝子検査を行うためです。(※遺伝子検査は一人あたり10万円以上の費用がかかります)

第1ゴールを1000人の睡眠調査を達成すること、第2ゴールとして必要な睡眠量を決める遺伝子をみつけることを目指していきたいと考えています。

このプロジェクトには、睡眠に悩むヒトの未来を変える力がある。

もし今回のプロジェクトが順調に進み、睡眠状態とメンタルヘルスとの関連について重要な証拠情報を見つけ、「睡眠量を決める遺伝子」を突き止めることができれば、

むやみに睡眠量を削ったりせず、個人の生産性を増やし、健康に生き生きと暮らすことができる未来がくるのです。

また、不眠や睡眠障害と関係の深い生活習慣病・うつ病をはじめとする病気の予防法・診断法・治療法が確立できるかもしれません。今はまだ治らない、治療が困難とされているような病気も、治すことができる未来をつくる可能性を秘めています

どうか皆様のご理解とご協力をお願いできれば幸いです。

寄付いただいた方への特典(リターン)について

活動量計を用いて皆様の睡眠を解析します。(※「新着情報」にて詳細を更新してまいります)自分の睡眠をデータとして客観的に見つめれば、睡眠改善&生活改善にも役立つかもしれません。

調査では、正確な睡眠データを得るために、活動量計と睡眠日誌の合わせ技で解析を行なっています。

 

 

具体的に説明しますと、被験者の方々には1週間の間、腰のあたりに活動量計をつけて生活していただきます。活動量計には加速度センサーが内蔵されていて、常に体の動き方を記録しています。寝ている時に装着すれば、睡眠時間、途中目が覚めた(中途覚醒)時間、消費カロリーなどを算出することができます。

 

 

解析結果のレポートの例  (資料提供:キッセイコムテック株式会社)
睡眠のデータだけでなく、1日の歩数や消費カロリーなども知ることができます

結果の見方が解説してあり、結果に応じた睡眠のアドバイスなども記載されていますので、睡眠や生活習慣の改善にご活用いただけます。

こちらの睡眠解析は、20,000円または30,000円の寄付をしてくれた方にお礼として提供しています(30,000円の寄付には上記のアドバイスの他に、産業医からのコメントがついてきます)。睡眠薬などを服用中の方を含めどなたでも解析できますし、睡眠解析に関するやりとりは全てメールやお電話、郵便で行うため遠方の方でもご利用いただけます。

客観的な睡眠データをもとに、ご自身の睡眠を見つめなおしてみませんか。

プロジェクトメンバー

柳沢 正史(所属:筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長)

1960年東京都練馬区生まれ、医学博士。1988年、筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。2001年JST/ERATO「柳沢オーファン受容体プロジェクト」総括責任者、2010年内閣府最先端研究開発支援プログラム(FRTST)中心研究者を経て、2012年より現職。米国科学アカデミー正会員。2018年1月1日に朝日賞の受賞が決定。専門は、神経科学・分子薬理学。

松崎 一葉(所属:筑波大学医学医療系)

精神科医で、働く人たちのメンタルヘルスが専門。著書に、『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』 (PHP新書)。松崎研究室のメンバーは、全員、精神科医であることから、睡眠に困っている人たちを日々診ている。

佐藤誠(所属:筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構)

睡眠学会認定医。睡眠時無呼吸症候群の治療が専門。持ち運び可能な簡易な治療器具の開発にも携わる。 人々の疾病予防や健康増進に貢献できるよう、佐藤研究室ではヒトを対象とした次の睡眠研究に取り組む。睡眠環境や生活習慣に介入する睡眠実験では、筑波大学スポーツ医学の徳山研究室(運動栄養学)と連携し、エネルギー代謝の測定や生体リズムの評価も行っている。実験室での睡眠脳波測定に加え、自宅における睡眠の評価、ヒトの睡眠制御遺伝子の探索による睡眠メカニズムの解明など多角的なアプローチを通じ、睡眠の質改善につながる生活習慣や睡眠環境、さらに遺伝的要因に基づいた各個人に適した睡眠の提示を目指している。