音楽の違いをAIで数値化 アプリでプロの演奏と比較

代表者 : 山際 伸一  

システム情報系 山際 伸一 准教授

 インターネットを通じ、自分と似た音楽性を持つバンドメンバーを募る。ピアノコンクールの審査を人工知能(AI)が担当する。そんな時代が来るかもしれない。 
 山際伸一准教授(シス情系)と九州大学の河原吉伸教授らの研究グループは、電子楽器メーカーのローランド(浜松市北区)の協力を得て、人間が感じる音楽の違いを数値化できるAIを開発することに成功した。音楽や演奏の新たな楽しみ方が生まれることが期待される成果だ。同じピアノ曲を聞いても、奏者によって、人が受ける印象は異なる。それぞれの演奏には、アーティキュレーション(音と音とのつなぎ方や切り方)、デュナミーク(音の強弱)、フレージング(旋律の区切り方)に違いがあるからだ。 
 コンクールでは、その違いを審査員が経験的な感性に基づいて聞き分け、音楽性が高いかどうかなどを判断している。ただ、これらの要素をコンピュータに認識させることはできなかった。 山際准教授らは演奏をデジタル化して記録する国際標準規格「MIDI」(Musical Instrument Digital Interface)に着目した。ピアノ演奏の場合、MIDIには音符の打鍵のタイミング、打鍵の強さ、音の長さといった情報が時間軸に沿って記録されている。 
 山際准教授らは、楽譜通りに作ったMIDIデータを「基準演奏データ」とし、実際の演奏を録音したMIDIデータと比較した。  
その結果、「基準演奏データ」との打鍵タイミングのズレや打鍵の強さ、音の長さの違いを情報処理することで、音楽性の類似度を数値化することに成功した。例えば、Aさんの演奏とBさんの演奏の類似度が20、AさんとCさんの演奏の類似度が50なら、Aさんの音楽性がBさんよりもCさんに近いと判定できる。実際にMIDIデータの比較から類似性が高いと判定された演奏をピアノ演奏経験者に聴いてもらったところ、約7割の人が類似性を認めた。この技術の応用もすでに始まっている。ローランドが提供するアプリを使うと、同社のデジタルピアノと連動し、自分の演奏とピアニストの演奏を比較できるのだ。
 
 山際准教授は「数多くある音楽表現の中から、AIが音楽の感性を数値化するのに何が必要なのかを見つけることが難しかった。将来的には、自分の演奏をインターネット上にアップロードすると、音楽性の近い人が紹介されるような、感性の数値化を媒介としたコミュニケーションを可能にしたい」と語った。