最古のオーロラの記録発見 紀元前660年のイラクで

代表者 : 三津間 康幸  

筑波大の三津間康幸助教(人社系)や大阪大大学院生の早川尚志氏などの研究チームは、紀元前
680~同650年ごろにアッシリア(現イラク北部)で観測されたオーロラを記録した楔形文字
の粘土板を確認した。
 
従来を約100年さかのぼる最古の観測記録だ。地球上の電力網や通信網に影響を及ぼす大規
模な太陽活動が、どのような頻度で発生しているかを知る上で、貴重な資料になるという。
 
三津間助教らは、紀元前8世紀から同7世紀にかけて、アッシリアやバビロニア(現イラク南部)
の天文占星学者たちが作成した「アッシリア占星術レポート」を解析した。
アッシリアの王に対し、占星術的な観点から、観測された天文現象が何を予兆するかを説明した文書だ。
 
この文書は、オーストリアの研究者によりアルファベット化と英訳がなされ、「アッシリア占星術レポート刊本」として
公開されている。研究チームはその中に、「赤光」、「赤雲」「赤が空を覆う」などオーロラ現象
を示す3点の記録を見つけた。
 
3点とも大英博物館所蔵の粘土板の記述で、研究チームは同館で現物を確認するなどした。紀元
前680年から同650年ごろのものという。
 
オーロラは、太陽が放出する電気を帯びた粒子が地球の大気とぶつかることで発生する。通常は
北極や南極など高緯度地域でしか見られないが、大規模な太陽活動が生じると、低緯度地域でも観
測されることがある。こうしたオーロラは、赤く光るのが特色だ。
 
大規模な太陽活動の痕跡は樹木の年輪や南極の氷床にも残される。これらの解析からは、紀元前
660年ごろに史上最大級の太陽活動があったとされており、今回発見された記録はその際見られ
たオーロラを示す可能性がある。
 
三津間助教は、これまで最古のオーロラ記録(紀元前567年)を残すとされてきた「バビロン天文日誌」も解読中
だ。紀元前7世紀から同1世紀にかけ、バビロニアの中心都市バビロンで作成された楔形文字の粘
土板文書だ。月ごとの天文現象のほか、農畜産物の価格やユーフラテス川の水位などが記録されて
いる。天文学者は日々の記録から暦を編さんするなど、生活の向上に努めた。
 
三津間助教は2011~13年にかけ大英博物館に滞在。天文日誌など約2000枚の粘土板を約8万枚の写真に収めた。
 
太陽活動の活発化は、地磁気に異常をきたす磁気嵐を引き起こす。電子機器や通信技術に依存す
る現代で大規模な磁気嵐が起きると、停電やGPS、スマートフォンが利用できなくなるなど大き
な被害が予想される。
 
太陽の過去の活動を知ることは、今後の対策にも大いに役立つ。
 
三津間助教は「古代イラクの文書には、オーロラをはじめとする未発見の天文現象が多数、記録
されているはず。更に分析を進めたい。今回の調査に用いた刊本には数字の誤読や月の間違いなど
が散見される。今後の研究者にとっての礎となるよう、間違いのない解読を残したい」と語る。
 
古代の天文学者たちが残した記録が2600年以上もの時を超えて私たちの生活を守る。歴史を
正確に知り、受け継ぐ重要性がそこにある。