認知検査は事故抑止せず 科学に基づく交通政策を

代表者 : 市川 政雄  

 運転免許の更新時に認知機能の検査が導入された後も、高齢運転者による事故は減って
いないばかりか、75歳以上の交通弱者の死傷率(自転車乗車中か歩行中)の上昇を招いた。
こんな分析結果を市川政雄教授(医学医療系)らの研究グループがまとめた。認知機能検査
の在り方に一石を投じる研究として、大きな注目を集めている。
 認知機能検査制度は、道路交通法の改正に伴い2009年6月に導入された。高齢運転者
の事故を減らす狙いがある。
 75歳以上の運転者は免許更新時に、記憶力や判断力を測定する検査を受けることを
義務付けられた。認知機能が低下していると判定された運転者が特定の交通違反を犯すと、
専門医の診察が行われる。認知症と診断されると免許停止か取り消しになる仕組みだ。
 17年3月には対応が強化された。検査で機能低下の恐れがあると判定された75歳以上の
運転者は、交通違反の有無にかかわらず専門医の診察を受けると改められた。
 市川教授らは検査制度の効果を検証するため、全国の交通事故・外傷データ(05年1月から16年12月まで)
を分析した。
 具体的には、免許保有者当たりの交通事故発生率と人口当たりの事故による死傷率を70~74歳▽
75~79歳▽80~84歳▽85歳以上――の各年齢層で男女別に算出し、その変化を統計的手法を用いて解析した。
 その結果、検査対象である歳以上の事故発生率が検査対象外である〜歳の事故率と比べ
減少していないことがわかった。70~74歳は75歳以上と身体能力などの条件がほぼ同じとみられるため、
検査が事故の抑止につながっていないと考えられた。

 75歳以上の交通弱者の死傷率については、検査を導入しなかった場合の高齢交通弱者の死傷率
の予測値と実際の死傷率とを比較した。
 75歳以上の免許有効期限は3年のため、検査が一巡した12年6月以降の、死傷率を調べると、
75~79歳、80~84歳、85歳以上の女性と、80~84歳と歳80~84歳と85歳以上の男性で、
実際の死傷率が予測値を上回っていた。検査導入が高齢交通弱者の死傷率を増加させる副作用をもたらしたことになる。
 市川教授は「高齢運転者が認知機能検査導入後に運転を止めたり控えたりして、交通弱者に転
じたことが背景にある」と指摘する。
 今後は、17年の認知機能検査の運用変更や、それを受けた高齢者の交通手段の確保策などの効果を検証する予定だ。
 市川教授は「交通政策は科学的な根拠に基づき、確実に効果のあるものでなければならない。
今後も検証を続けていきたいと話している。