国立大学法人筑波大学 生命環境系(下田臨海実験センター) アゴスティーニ シルバン助教、ハーベイ ベン助教、和田茂樹助教、稲葉一男教授らは、プリマス大学(英国)、パレルモ大学(イタリア)との共同研究により、伊豆諸島の式根島に存在するCO2シープにおいて、海洋酸性化の影響がサンゴや藻類群集に影響を及ぼし、さらにそれらを生息場とする魚類群集を大きく変化させることを見出しました。人類がCO2の排出を削減しなければ、魚類の多様性が45%低下し、海から得られる資源量が減少すると予測されます。
大気中のCO2濃度の上昇により、地球温暖化だけでなく、CO2が海水に溶け込むことで海洋の酸性化が進行し、海洋生物に長期的な影響を及ぼすことが危惧されています。CO2シープは、海底からCO2が噴出した場所で、周囲の海水にCO2が溶け込み、pHが低下(酸性化)しています。つまり、この場所は、酸性化が進んだ未来の海と想定することができ、生態系全体に対する海洋酸性化の影響を調べることが可能です。
本研究グループは、式根島周辺において海底の生物群集と魚群調査を実施しました。式根島は、温帯域と熱帯域の境界的地理に位置し、海藻類とサンゴが混在していることから、それらを生息場とする魚類についても、熱帯性・温帯性の両方の種を観察することができます。調査の結果、CO2の噴出域に近い高CO2海域においては、サンゴや大型の海藻の減少が顕著で、これらの生物の隙間や陰を住処とする魚類は生息場を奪われるために、魚類の多様性が低下していることが明らかとなりました。熱帯性の魚種は温帯性の魚種と比較して負の影響を受ける傾向があり、特に生息場や食性に関して選好性の高いスペシャリストの種は著しく減少します。その結果、温帯性でかつ選好性の低いジェネラリストの種が生き残ります。
魚類は人類にとって欠かすことのできない資源であり、その群集変化は人の生活に甚大な影響を及ぼします。こういった事態を回避するために、一刻も早く温室効果ガスの削減を進めることが必要です。
(図:各サイトの海底の生物群集と生息する魚類の様子)