柔らかいメチル化ペクチンが花粉管の通り道を作る ~植物の種子ができるための重要な仕組みを解明~

代表者 : 岩井 宏暁  

2020/04/28 

国立大学法人筑波大学 生命環境系の岩井宏暁准教授は、花粉管の通り道である雌しべの伝達組織が、細胞壁の主成分であるペクチンのメチル化調節によって形成される仕組みを明らかにしました。

被子植物の受精の過程では、雌しべの柱頭に受粉した花粉が発芽し、発芽した花粉から花粉管が、雌しべの中を伸長して、精細胞が卵細胞のもとへ運ばれることが必須です。この花粉管が伸長する通り道となっているのが、雌しべの伝達組織です。現在までに、この組織にペクチンが含まれていることは報告されていましたが、それがどのような役割を果たしているかについては、わかっていませんでした。またそのペクチンがどのような特性を持っているかも謎でした。そこで本研究では、単子葉植物のイネの花の細胞壁およびペクチンと、そのメチル化制御に着目し、花粉管の通り道の形成にメチル化ペクチンが必須であることを明らかにしました。

本研究ではまず、単子葉植物の葉にはペクチンがほとんど含まれていないことが知られていましたが、花、特に雌しべには非常に多くのペクチンが含まれていることを発見しました。ペクチンは、メチル化した状態では柔らかいゾル状ですが、メチル基が外された(脱メチル化した)状態では、カルシウムと結合して流動性のないゲル状になります。一方、本研究で着目した酵素、ペクチンメチルトランスフェラーゼは、メチル化ペクチンを合成し、細胞壁を柔らかい状態に保つ働きがあります。この酵素の遺伝子OsPMT16が欠損した変異体では、花粉管の通り道である雌しべの伝達組織がほとんど形成されず、そのために種子を形成することができませんでした。このことから、花粉管の通り道はメチル化ペクチンが豊富に存在し非常に柔らかい特性を持っていること、またその合成が、花粉管の通り道である花柱の伝達組織の形成に必須であることがわかりました。本研究成果は、雌性不稔化により柑橘類などの種子をなくすような新たな品種改良や、遺伝子組換え作物、ゲノム編集作物の遺伝子拡散防止への応用が期待できます。


図:イネの雌しべと受粉、受精
雌しべの柱頭についた花粉は、花粉管を伸ばして柱頭の中に入りこみます。さらに通り道である花柱伝達組織の中を下に伸びて胚嚢に到達します。花粉管の中の精細胞は卵細胞と受精し種子を形成します。