国立大学法人筑波大学 生命環境系 木村圭志准教授、藤村亜紀子特別研究員(研究当時、現:東京大学薬学部 博士研究員)、林優樹特別研究員(研究当時、現:欧州分子生物学研究所 博士研究員)、生命環境科学研究科 博士課程2年 加藤かざしらの研究グループは、公益財団法人がん研究会 がん研究所 実験病理部 広田亨部長との共同研究により、新規な核小体タンパク質複合体を同定し、その複合体が細胞分裂期(M期)における均等な染色体の分配を担保することをつきとめました。
核小体は、真核生物の細胞核に存在する最も大きな核内ボディで、リボソームRNAの転写とリボソーム構築の場としての古典的な役割に加え、細胞周期の制御や種々のストレス応答などの多様な細胞機能に関与することも報告されています。特に、M期では核小体が解体され、核小体タンパク質や核小体RNAの一部が、染色体の表面の領域(PR; perichromosomal region)に濃縮されることから、核小体と細胞分裂の関連が注目されています。しかしながら、その実態の解明は進んでいません。
本研究グループはこれまでに、約600種類の核小体タンパク質のsiRNAを用いたスクリーニングを行い、M期に関与する因子としてNOL11 (nucleolar protein 11)を同定しました。本研究では、NOL11が、他の2つの核小体タンパク質WDR43およびCirhinと、新規なタンパク質複合体NWC (NOL11-WDR43-Cirhin)複合体を形成することを発見しました。このNWC複合体は、分裂間期(間期)には核小体に、M期には染色体のPRに局在します。また、siRNAを用いたノックダウンの実験から、このNWC複合体が、姉妹染色体分体間の接着や、M期中期における染色体の細胞赤道面での整列に、重要な役割を担っていることを見出しました。さらに、この染色体動態の制御は、細胞分裂の多くのイベントを制御する鍵分子であるAurora Bキナーゼの染色体上での適切な局在、すなわちM期染色体のセントロメア注7領域への濃縮によることを明らかにしました。
姉妹染色体分体間の接着や染色体の細胞赤道面での整列は、細胞分裂における娘細胞への均等な分配に必須で、これらの過程に破綻が生じると、がんの悪性化で観察される「染色体不安定性」の増大を引き起こします。本研究成果は、核小体と細胞分裂とのリンクの分子レベルでの理解につながるとともに、がんの進展のメカニズムに関する手掛かりになると期待されます。