国立大学法人筑波大学 生命環境系 高橋将人 博士研究員と青柳秀紀 教授は、培養中の微生物に対する火炎殺菌操作がフラスコ気相部および微生物に及ぼす影響を、世界で初めて報告しました。
微生物を振盪フラスコ培養する際、微生物や培養液の挙動を分析するためにサンプリングを実施します。サンプリングにおいては、フラスコの振盪の中断、クリーンベンチへのフラスコの移動、フラスコ上部にある培養栓の開封、フラスコおよび培養栓の火炎殺菌といった一連の操作が行われます。これらの操作が、微生物に何かしらの影響を及ぼすことは、微生物培養に携わる熟練者は経験的に感じていた可能性はあります。しかしながら、その詳細を科学的に捉えた研究はほとんどありません。本研究グループはこれまでに、振盪を中断せずにサンプリングできるシステムや、それと併せて二酸化炭素(CO2)や酸素(O2)濃度をモニタリングできる独自技術を開発し、フラスコ内の気相環境(特にCO2)が、培地と同様に重要な培養因子であることを明らかにしてきました。
本研究では、サンプリングを行う際の火炎殺菌操作に注目し、ブンゼンバーナーによって生じる燃焼ガスが、フラスコ気相部のCO2濃度に及ぼす影響を種々の条件で実測し、また、高いCO2濃度を有した燃焼ガスが三角フラスコの上部から流入する様子を、流体解析することに成功しました。これらの知見に基づき、火炎殺菌操作の一時的なCO2濃度の上昇を模倣し、振盪フラスコ培養した結果、微生物の振盪フラスコ培養中に一般的に実施してきた火炎殺菌操作は、微生物の増殖に影響を及ぼすことが明らかとなりました。本研究成果は、振盪フラスコ培養法の未制御因子の理解に寄与すると共に、再現性の高い培養の実現や新たな培養条件の拡張(それに伴う新規な微生物機能や新規微生物資源の開拓)にも貢献できる可能性があり、微生物培養関連分野において産業面でも新たな潮流を生むことが期待されます。
図 微生物培養の一般的なサンプリング過程(a, 振盪の中断; b, クリーンベンチ内での無菌作業; c, 培養栓の開封; d, 火炎殺菌操作; e, 培養液の採取)
時計まわりにサンプリング時の操作を示しており、グレー部分はクリーンベンチ内の操作を示しています。火炎殺菌操作が繰り返されていることがわかります。