国立大学法人筑波大学 システム情報系 新里高行助教らの研究グループは、2匹から5匹までの鮎の群れに統合情報理論を適用し、鮎の群れは群れのサイズの変化に伴って、自身の内的な因果構造を質的に変化させていることを明らかにしました。
これまで、「群れ」に関する研究のほとんどは、群れの内部の情報伝達について大きな関心を払ってきました。しかしながら、どれくらいの個体数が集まれば「群れをなしている」と言えるか、また、ある個体数を超えると一気に群れとなるのか、それとも徐々に変わっていくため明確に決定することはできないのか、など、一つの自律的なシステムとしての群れが、質的にどのような性質を持っているかについてはあまり研究がなされてきませんでした。
本研究では、規模の小さい動物(鮎)の群れ内部の因果構造に注目し、統合情報理論を用いて分析しました。その結果、鮎の群れは、それぞれのグループ(群れ)サイズに応じて、異なる内的な因果構造を持つシステムであることを明らかにしました。具体的には、個体数が2匹のとき、「追いかけ(chasing)」という目の前の個体を追いかけ、個体数が3匹のとき、「分裂-融合(fission-fusion)」という決まった方向性を持たない運動をします。さらに、個体数が4匹を超えると「リーダーシップ」を持った個体が現れ、個体数が5匹になって初めて、個体間相互作用が、群れとしてのまとまりを作る上で強い意味を持つようになります。
本研究で得られた結果が示唆することは、動物の群れは「群れることの意味」を柔軟に変化させることで、「いつから群れをなすのか」という問いの前提を無効にしているのではないか、ということです。群れの意味は柔軟に変化するが故に、様々な多様性を内在させる一つのシステムのあり方なのです。本研究を応用することで、グループサイズに応じた様々なチームワークのあり方を明らかにすることができるかもしれません。
図:鮎の群れの内的な因果構造
(左図)局所的な相互作用を元に計算した鮎の群れの内的な因果構造を示したもの。内的な因果構造は統合情報量ΦとMIP cutによって定義される。左図の棒グラフは、ある視野(ξ)が与えられたときの、それぞれ群れの状態(○:ON, ●:OFF)に対応する統合情報量の大きさを意味する。
(右図)左図とMIP cutから得られる内的な因果構造。MIP-cutがおかれる場所は群れの状態に応じて異なる。