海洋トランスフォーム断層を回る「ブーメラン」地震破壊 ~2016年ロマンシェ地震の特異な破壊成長過程を地震波形解析で解明~

代表者 : 奥脇 亮  八木 勇治  

2020/08/11 

国立大学法人筑波大学生命環境系 山岳科学センターの奥脇亮助教、八木勇治教授、清水宏亮大学院生(当時、現気象庁)らは、イギリス、ドイツの研究機関を中心とした国際共同研究に参加し、2016年に大西洋で発生したマグニチュード(M)7.1のロマンシェ地震を解析しました。その結果、地震破壊前線が、ブーメランのように途中で進行方向を逆向きに転回し、超せん断速度で逆伝播する特異な震源過程様式であったことを世界で初めて明らかにしました。

大西洋中央海嶺などでは、プレート同士が水平にすれ違うトランスフォーム断層が発達し、地震が発生します。トランスフォーム断層は、内陸地震の断層と比較して形状が単純であることから、断層の性質が地震破壊成長にどのような影響を及ぼすのかを探る上で重要な場所です。

本研究は、震源近傍に設置した海底地震計データと震源から遠く離れた遠地実体波データを統合的に解析することにより、大西洋中央海嶺で発生した2016年ロマンシェ地震の破壊過程を明らかにしました。破壊過程は二つのステージで構成されていました。①初期破壊は震源から浅部・東方向に進みますが、②破壊の方向が西へとブーメランのように逆転し、超せん断速度で高速に断層を逆伝播しながら断層浅部を破壊したことが分かりました。

本研究成果は、従来の常識を覆す、トランスフォーム断層における地震破壊の新たな姿であり、巨大地震の破壊成長機構の理解を促す新知見です。


図:上段パネルにトランスフォーム断層の概念図と、解析対象地の海底地形図を示す。星印は2016年ロマンシェ地震の震央、赤線は地震の破壊域。白線はプレート境界。プレートの運動方向を矢印で示す。下段パネルに地震破壊領域の断面図を示す。横軸は震央からの距離、縦軸は海面からの深さ。矢印で破壊前線の進行方向を示す。星印は震源。背景色は温度構造を表す。