社会脳:社会的絆を育むホルモンのはたらき

代表者 : 小川 園子    
他のメンバー : Pavlides Constantine  高橋 阿貴  

高度情報化、多様化が進む現代社会では、人間同士のコミュニケーションが希薄化し、日常生活において互いに理解し合うことの困難さが認識されるようになってきています。今日の社会が抱える問題の多くは、周囲の人々との行動的、情動的関係を正常に保つことができないことに起因すると考えられます。安定した人間関係を樹立し維持していくことは、人間のあらゆる活動の基盤であり、その形成・維持を制御している脳内機構を理解することは極めて重要な課題です。
これらの問題には、これまで主に社会学的・心理学的視点からのアプローチがなされており、生命科学としての取り組みが充分ではありませんでした。そこで、本リサーチユニットでは、特定の個体(人)に対する情動的、身体的な愛着関係の形成、維持、変容、さらに再生に関わる心理・生理現象について、生物学的観点からの包括的な理解を目指した新しい融合的基礎研究を推進しています。
具体的には、(1)脳内での特定タンパク質の発現が親子・仲間関係の樹立、維持に果たす役割を遺伝子改変マウスの行動解析とヒト多型解析とを相互に連関させて推進する、(2)性ステロイドホルモンの形成作用(発達途上に脳組織の性特異的な構築に関わり、脳の性分化を決定づける)と活性作用(成長した脳に作用して、脳機能の生理学的・生化学的な調節を通して行動の発現の制御に関わる)に着目し、その各々において、エストロゲン受容体が果たす役割とその脳内分子機構について解析する、(3)他個体(人)の認知やそれに伴う情動的反応を制御する脳内分子の働きについて、実験心理学及び神経生理学的な解析を行う、(4)個体間関係の樹立、維持の神経生物学的基盤と情動認知機構について、社会行動の個体(人)差に寄与する内分泌関連要因の同定も含めて、マウスからヒト、ヒトからマウスという両方向性の研究を進めるための実験モデルを構築することをメインテーマとして研究を進めます。
これらの研究を通して、学際融合的視点から、他者との関係性の回復や再生に向けての説得力ある解決策を提案することのできる新学術領域、「社会性の行動神経内分泌学」を確立することを目指します。「一生を通して脳に作用するホルモンの働き」は、ヒトの絆行動が現れる基盤にもなっています。 性、母性・父性、攻撃性・親和性を支える社会行動の神経生物学基盤に関する上記の研究を通して、ヒトの社会性の理解や現代社会が抱えるヒトの繋がりに関する課題の解決に貢献します。