炎症性腸疾患の分子機構の解明と治療戦略の創出

代表者 : 深水 昭吉    
他のメンバー : 金 俊達  

炎症性腸疾患(IBD)は、潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)に大別され、大腸や小腸の粘膜に慢性的な炎症が起こる原因不明の消化器疾患であり、厚生労働省に難病として指定されています。IBDは、大腸粘膜の異常な白血球の活性を特徴として、寛解と再燃を繰り返しながら長期間炎症が持続することで大腸癌の一因にもなり、日本では、UCがおよそ16万人、CDは4万人と難病の中でも患者数が多い疾患となっています。世界的には、20~30代の若年者で最も発病率が高く、IBDの患者数は500万人を超えており、先進国で罹患率が顕著で、発展途上国も食生活の欧米化や都市化に伴って発症率が急増することが危惧されています。
本研究は、筑波大学生存ダイナミクス研究センターが開発したタンパク質間相互作用可視化マーカーを用い、UCの炎症部位に細胞内タンパク質のカルレティキュリン(CRT)と白血球の接着分子インテグリン(ITGA)の相互作用が増加していることを発見しました。また、エーザイが創出し、EAファーマが治験中の低分子治療薬の類縁体が「CRT-ITGA」を遮断することで、白血球全般の接着・浸潤を抑制する新しいメカニズムを発見しました。さらに、本類縁体が、IBDモデルマウスへの経口投与によって顕著な抗炎症作用を有することや、「正常-炎症-改善」の過程でプログラミングする遺伝情報をトランスクリプトーム解析から明らかにしました。(Nature Commun. 2018, doi:10.1038/s41467-018-04420-4)。
本低分子化合物は、経口有効性を持つIBDの治療薬の候補として第二相試験の実施中であり、今後は「CRT-ITGA相互作用」の検出法を臨床開発におけるバイオマーカーとして活用し、新たな治療戦略の創出を目指します(JSTの産学協同実用化開発事業[NexTEP]によって支援:低分子化合物とバイオマーカーを用いた炎症性腸疾患の治療、J13-06)。