慢性腎臓病(CKD)の患者は世界人口の10%にのぼり、国内でもすでに1300万人を越えるとされています。中でも、現在、世界中で200万人のCKD患者が透析や腎移植を受けていますが、治療を必要とする全患者数の10%にも達していません。日本でも約30万人が人口透析を受けており、患者の生活の質的低下だけでなく、年間1兆円の国家の経済負担を生じています。しかし、一旦低下した腎機能を回復させることは極めて難しいため、CKDの早期発見と予防、進行を阻止する治療法の基盤開発が急務です。
筑波大学生存ダイナミクス研究センターでは、腎尿細管細胞に高発現するヘパリン結合性分泌因子であるフィブリン7(Fbln7)に着目し、Fbln7が腎尿細管細胞の外層を覆うグリコカリックスとよばれる糖タンパク群に結合することを発見しました。 CKDをはじめとして、糖尿病や動脈硬化症などの慢性疾患に合併する石灰化は、予後の重要な指標として知られていますが、Fbln7が核となって、腎尿細菅細胞上にカルシプロテイン粒子(CPP)の沈着を引き起こし、石灰化を促進することを発見しました(*)。また、私たちが独自に作製したFbln7欠損マウスは、野生型マウスと比べて、高リン負荷に対して、明らかに腎石灰化が抑制され、尿細管周囲の炎症反応が軽減することがわかりました。これにより、Fbln7の阻害が CKDの進行を抑えることがわかり、抗Fbln7療法がCKDの治療法として有効であるという原理証明(Proof of principle)を確認しました(**)。今後は、Fbln7の低分子阻害薬や阻害抗体の開発を通して、CKDの早期治療を確立することを目指します。また、Fbln7のグリコカリックスに結合するレクチン様性質を利用して、産総研の舘野研究員が開発した高感度レクチンアレイなどの新技術を駆使し、Fbln7結合タンパク質の同定と異所性石灰化の分子メカニズムの解明を目指します。