皮膚幹細胞の老化度を評価するバイオマーカーの同定とその応用

現在、個体の老化状態を評価するには、視診や統計的データに依存する面が大きく、臓器の機能を反映した老化の診断基準は確立されていません。そこで、老化予防の観点から、非侵襲で簡便に測定でき、老化状態を早い段階で予測できるような機能的評価指標とそれに基づいた老化遅延法の確立が求められております。
細胞表面の糖鎖は「細胞の顔」とも呼ばれるように、細胞の種類や状態によって劇的に変化することが知られています。血液型や腫瘍マーカーをはじめ、糖鎖の違いは優れたバイオマーカーとして幅広く利用されてきました。以上のことから、幹細胞表面の糖鎖に着目することで、幹細胞の老化を定義し、制御することが可能になるかもしれません。
本研究では、独自に確立した表皮幹細胞の解析ツール(Nat Cell Biol 2016、筑波大学プレスリリース参照)と糖鎖プロファイリング技術を組み合わせることで、幹細胞の老化度を規定する分子マーカーを同定することを目指します。また、in vivoにおいて糖鎖をターゲットとした老化幹細胞の選択的除去を試み、組織・個体の機能改善に有効に働くかを検証します。さらに、加齢に伴い糖鎖修飾が変化する標的タンパク質の同定と、糖鎖修飾を担う酵素を欠損したマウスの表現型解析により、幹細胞老化過程における糖鎖修飾の生物学的意義と制御機構を解明することを目指します。
本研究では、老化現象を「幹細胞の老化」という独自の切り口から捉え、細胞表面糖鎖を高感度かつ迅速に検出する技術を用いることで、世界的に見てもほとんど例がない老化幹細胞の糖鎖解析とその応用に挑戦します。本研究で得られる成果は、老化幹細胞やその制御因子を標的とした新たな治療戦略・創薬標的・診断マーカーの創出へとつながり、基礎・応用の両面において、極めて先駆的で意義が大きいものと期待されます。