半導体センサーが拓く持続的なイノベーション

代表者 : 原 和彦  

加速器を用いた素粒子実験においては、“素粒子反応が起きた場所”の正確な観測が研究する上で重要であり、シリコン半導体センサーは、粒子検出器として主要なセンサーとなっております。
私たちは、素粒子の過酷な実験環境でも作動するセンサーの開発・建設を長年にわたり行っております。最近では、 SOI(Silicon-On-Insulator)と呼ばれる技術を新たにセンサーに用いることで、世界一の位置分解能をもつ半導体センサーFPIXを開発しました(筑波大学注目の研究: http://www.tsukuba.ac.jp/attention-research/p201706231400.html)。これにより、従来では不可能であった1ミクロンの位置分解能で中性子を検出するといった計測が可能となります。また、内部増幅機能つき半導体検出器(LGAD)も新たに開発し、半導体素子として30psの時間分解能を実現することを示しました。これを半導体の微細化の特長と合致させることで、優れた時間・空間分解能を同時に可能とする4D検出器を実現できる可能性があります。
こうしたシリコン半導体センサーの技術は、将来の高精度加速器実験には不可欠な技術です。一方で、素粒子実験だけでなく、がん検査をする方法の一つであるPET(Positron Emission Tomography)検査に用いる装置に適用することで、高精度時間分解能がバックグランドの低減に寄与し、装置の大幅な機能向上に貢献し得る等、医療分野での応用も期待されています。また、本研究においては、産業界の様々な場面で用いられている超大規模集積回路(VISI)の設計の機会も得られ、技術者育成という観点でも社会に貢献しています。このように、素粒子実験用に開発するシリコン半導体センサー技術は、新たな産業を生み出すイノベーションとなり、センサーを軸としたさまざまな技術の成長や雇用増進にも貢献しています。