国立大学法人筑波大学 医学医療系 循環器内科 家田真樹教授、貞廣威太郎講師らの研究グループは、心臓の柔らかさを再現した足場を用いると、マウス線維芽細胞から心筋細胞への誘導が促進されることを発見しました。
本研究グループはこれまでに、新しい心臓再生法として、心臓に存在する心筋以外の心臓線維芽細胞に心筋誘導遺伝子を導入し、培養皿上やマウス生体内で心筋細胞を作製できることなどを報告してきましたが、臨床応用にあたっては、成熟した心筋細胞を効率よく誘導する必要がありました。これまでに、生体外で誘導した心筋細胞よりも、生体心臓内で誘導した心筋細胞の方が成熟した性質を有しており、細胞周囲の環境が心筋誘導に影響することが示唆されていましたが、そのメカニズムは不明でした。また、従来の細胞培養で使用するプラスチック(ポリスチレン)製の培養皿は生体心臓に比べて約10万倍硬いことが知られていますが、細胞外基質の硬さが心筋誘導に与える影響は未解明でした。
本研究では、生体心臓と同等の柔らかさの細胞外基質を敷いた培養皿を使用すると、心筋誘導効率が飛躍的に上昇し、成熟した心筋細胞を効率よく誘導できることを発見しました。生体心臓より硬い培養皿上では、細胞内のインテグリン、Rho/ROCK、ミオシン、YAP/TAZシグナル経路と線維化遺伝子の発現が進み、心筋細胞への誘導が阻害されていることがわかりました。一方、生体心臓と同等の柔らかい細胞外基質を敷いた培養皿では、このシグナル経路と線維化遺伝子発現が抑制され、心筋誘導が改善しました。さらに、柔らかい細胞外基質の使用により、現在最も効率が良いセンダイウイルスベクターによる心筋誘導も2倍に改善し、拍動する成熟した心筋細胞の誘導効率が15%まで上昇しました。
本研究成果は、心筋誘導のメカニズム解明に貢献するだけでなく、心筋梗塞や拡張型心筋症など、心臓が硬い線維化組織に置換されるさまざまな心臓疾患への再生医療の応用が期待されます。