歴史が古い植生ほど希少種が多い ~生態系保全の優先度明らかに~

筑波大学山岳科学センターの井上太貴大学院生(博士後期課程1年)、田中健太准教授、神戸大学大学院人間発達環境学研究科の矢井田友暉大学院生(博士後期課程1年)、丑丸敦史教授らのグループは、数千年続く古い草原と50~70年前にスキー場造成のためにできた新しい草原との間で、植物の多様性と種の組成が異なることを発見しました。

草原は250万年前の氷河時代から日本列島に普遍的に存在してきた代表的な生態系の一つですが、過去100年間で世界的にも、日本国内でも急速に失われ、草原性の動植物の絶滅が強く懸念されています。

調査地とした菅平高原と峰の原高原(長野県上田市・須坂市)のスキー場は、草原下で生成される黒ボク土の堆積により(参考文献1)、何千年も前(縄文時代)から草原だったことが分かっています。縄文人による火入れによって草原が維持されていた可能性があり、奈良時代には放牧が始まるなど、人の手によって広大な草原が維持されてきました。しかし、明治時代後期以降、草原の管理放棄によって森林化したり、植林されたりすることによって、草原の大部分が失われました。現在の菅平高原と峰の原高原のスキー場は主に、元々草原だった場所にリフトが架けられていますが(古い草原)、森林になってしまった場所を伐採してもう一度草原に戻してリフトを架けた場所(新しい草原)もあり、どちらにも在来の草原性植物が見られます。

本研究では、これらのスキー場周辺の過去の植生の変遷を地形図や空中写真から読み取って地理情報(GIS)として整理した後に、古い草原、新しい草原、隣接する森林で植物の調査を行いました。その結果、古い草原では在来植物の種数が多く、特に草原性の絶滅危惧種の種数が多いことが分かりました。一方、新しい草原の植物群集には森林性の植物も多く見られました。そして、過去の草原時代に分布していた草原性の植物が森林化によって失われ、再び草原になって50~70年が経過しても失われた植物が戻っていないことが分かりました。

この研究成果から、急速に減少している草原の中でも、古くから続いている草原の保全優先度が特に高いことが明らかとなりました。歴史が古い植生ほど希少種が多いという知見は、植物以外の生物や、スキー場草原以外の生態系にも適用できる可能性があります。