悪性リンパ腫が免疫に対する抵抗性を獲得する仕組みを解明

国立大学法人筑波大学 プレシジョン・メディスン開発研究センターの杉原英志准教授は、慶應義塾大学医学部 先端医科学研究所の佐谷秀行教授らとの共同研究により、悪性リンパ腫ががん免疫に対する抵抗性を獲得する仕組みを明らかにしました。

本研究グループはこれまでに、生体外でマウス体細胞を培養し、がん関連遺伝子を導入後、マウスへ移植することで、白血病や骨肉腫をはじめとする様々な発がんマウスモデルを開発してきました。本研究では、同様の方法では樹立が難しかった、高分化型B細胞由来のリンパ腫の新たなマウスモデルの開発に成功し、発症の過程を分子レベルで解析しました。その結果、アポトーシスによる細胞死を誘導する細胞膜分子Fasの発現低下が、リンパ腫の発症と維持にきわめて重要であることを明らかにしました。また、B細胞の分化に関わる分子CD40をリンパ腫細胞で活性化すると、Fasの発現が回復することを見出しました。一方、ヒトリンパ腫の一部の細胞株ではアポトーシス阻害分子Livinが高発現しており、Fasを再活性化してもアポトーシスに抵抗性を示すことが分かりました。さらに遺伝子発現プロファイル解析により、悪性リンパ腫のバーキットリンパ腫、および、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の患者において、Fas低発現とLivinの高発現が予後不良と強い相関性を示すことを見出しました。そこでLivinを標的とした阻害剤を用いてLivin高発現リンパ腫細胞に投与し、Fas誘導アポトーシスが有意に増加することを、ヒト細胞株及びマウスモデルを用いて確認しました。

以上の結果から、Livinを標的とした治療法は、Fas誘導アポトーシスによるがん免疫の効果を高める、非常に有望な治療法となり得ることが明らかになりました。また、Fasリガンドを介したFas誘導アポトーシスは、現在、がん免疫療法で中心的な役割を担う、細胞傷害性T細胞の攻撃手段の一つであり、今回の発見は、リンパ腫に限らず広範ながん種に対するがん免疫抵抗性の仕組みの解明につながると期待されます。