草原に複数の花畑があるなど、環境中に複数の餌場が存在する場合、ある動物個体が1日あたりの栄養獲得量を最大化するためには、最適なタイミングで餌場間を移動する必要があります。これまでに、鳥や昆虫などが、実際にこの「最適採餌戦略」に沿った行動を取っていることが報告されていますが、それには餌場と餌場の間の距離を認識できる高度な認知能力が不可欠で、認知能力を持たない単細胞の微生物には、最適採餌戦略は実行できないとされてきました。
しかしながら本研究チームは、高度な細胞トラッキング技術を用いて直径1マイクロメートルの細菌細胞が餌場に滞在する時間を実測し、その膨大なデータを数理モデルと照らし合わせることで、海洋細菌V. ordariiが、より多くの栄養を得るために、餌場の質に応じて滞在時間を調節し、最適なタイミングで餌場間を移動していることを明らかにしました。この結果は、「単細胞の微生物には複雑な最適採餌戦略は実行できない」というこれまでの常識を覆すものです。
このような能力は、進化の過程を通じて、最適な餌場間移動タイミングが微生物の遺伝的プログラムに書き込まれた可能性、すなわち微生物の持つ「進化を通した知的解決能力」が、従来考えられていたよりもさらに高度であることを示唆しています。また数理モデリングの結果は、最適採餌戦略を行う微生物は、そうでないものと比べて、最大およそ10倍の栄養を獲得できることを示しており、海洋微生物による物質循環への影響とその見積もりについても改めて検討する必要性を提起しています。