日本は高齢多死社会を迎え、人生の最終段階の医療やケアの重要性が高まっています。どのような医療やケアの提供を求めるのかを、あらかじめ家族や医療介護者と繰り返し話し合っておくと、自身の希望が叶いやすくなるとされています。厚生労働省はこのような人生の最終段階における医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合う取り組みに「人生会議」という愛称を与えています。そのような話し合いの促進には、どんな要因が関連するのか、あるいは何が話し合いの障壁となるのかを把握しておくことには、大きな意義があります。
これまでの海外での一般市民を対象とした研究では、大切な人との死別経験と、「人生の最終段階における医療に関する話し合い」を行うこととの間に関連があることが示唆されていました。
しかし我が国ではこのような研究はなく、本研究では、日本におけるそれらの要因を探るため、厚労省が2017年12月に一般国民を対象として実施した「人生の最終段階における医療に関する意識調査」で収集されたデータを利用し、分析しました。
その結果、大切な人を介護した経験がある人は、介護した経験がない人に比べて、「人生の最終段階における医療に関する話し合い」を行っている人の割合が高かったことが示されました。また、男性であること、年齢が若いことは、「人生の最終段階における医療に関する話し合い」を行っていないことと関連することが示されました。一方、今回の分析では、大切な人との死別経験と「人生の最終段階における医療に関する話し合い」を行っていることとの間に関連は認められませんでした。
本研究結果から、医療介護提供者が過去に介護経験のある個人と話し合いを始める際には、個人が自身の将来の治療やケアに対する希望を既に考えていたり、周囲と話し合ったりしている可能性を念頭において話し合いを進める必要があると言えます。また、医療介護提供者は、患者の介護経験が介護者自身の「人生の最終段階の医療に関する話し合い」に影響する可能性を認識した上で、患者の家族などと思いや負担を共有する、介護に関与していない人には可能な関与を支援するなどの対応を行うことが望ましいと考えられました。さらには今後、特に男性や若い人に対して、「人生の最終段階における医療に関する話し合い」を促す教育が必要であると考えられました。