海洋無酸素事変で堆積した地層は地震時に滑りやすい 〜生物大量絶滅と地震の意外な関係〜

海溝型地震は、プレート境界が地震時に高速(秒速約1㍍)で滑ることで発生します。2011年東北地方太平洋沖地震では、プレート境界浅部が大きく滑ったことで、巨大津波が発生しました。その後の研究で、このプレート境界浅部は、スメクタイトと呼ばれる摩擦の低い極細粒の粘土で主に構成されていることが明らかになりました。

しかし、プレート境界深部における地震発生過程は不明でした。そこで、本研究では、岐阜県各務原市の木曽川沿いに露出するかつてのプレート境界深部を調べました。

その結果、地震時の断層滑りは、黒色の有機質粘土層に沿って発生していたことが明らかになりました。この有機質粘土層は、海中から酸素がなくなることで、有機物が分解されず粘土とともに深海底に降り積もることで出来たものです。このような海洋無酸素事変は、地球の歴史の中で何度か起きていますが、各務原市の有機質粘土層は、今から約2億5200万年前の古生代–中生代境界をまたいで数百万年続いた海洋無酸素事変によるもので、生物の大量絶滅が起きたと考えられています。

試料を採取し実験室で詳細に調べました。すると、地震時の断層滑りにより粘土層が900–1100℃以上の高温で溶けてシュードタキライトと呼ばれる岩石になり、有機物の熱熟成度が顕著に増加していることが分かりました。更に、シュードタキライトの両側にある岩石が、数ミリ幅に渡り熱による破壊を受けている証拠も見つかりました。

本研究は、プレート境界深部では粘土層が地震時に溶けることで断層が滑りやすくなること、そして、周囲の岩石が熱により破壊されることで断層滑りが加速することを示唆しています。生物の大量絶滅をもたらした海洋無酸素事変は、実は地震時の断層滑りに影響を与えていたことが明らかになりました。