圧力で熱電変換材料の大振幅原子振動をコントロール ~熱電変換の高効率化に道筋~

広島大学自然科学研究支援開発センターの梅尾和則 准教授と同大学大学院先進理工系科学研究科の高畠敏郎 特任教授、九州大学大学院総合理工学研究院の末國晃一郎 准教授、筑波大学数理物質系 エネルギー物質科学研究センターの西堀英治 教授の研究グループは、熱電変換材料として期待される硫化銅鉱物テトラへドライトの低い熱伝導率をもたらす大振幅原子振動を圧力によって制御することに成功しました。テトラへドライト(Cu12-xTrxSb4S13、Tr:Mn、Fe、Co、Ni、Zn)は環境調和型の熱電変換材料として注目されています。この化合物では、三つの硫黄(S)原子が作るS3 三角形中の銅(Cu)原子が面垂直方向に非調和大振幅振動(ラットリング)しているため、熱伝導率がガラス並みに抑制されていると考えられています。そのラットリングの起源として二つのモデル、(a) S3 三角形のS 原子がCu 原子に及ぼす化学的圧力、(b) Cu 原子に隣接するアンチモン(Sb)原子のもつ孤立電子(ローンペア)による静電気力、が提案され論争となっていました。

本研究では、上記二つのモデルのどちらが妥当かを検証するため、圧力下でのラットリングの振舞いを調べました。そのために、テトラへドライトの3 万気圧までの圧力下における比熱を、広島大学自然科学研究支援開発センター低温実験部で独自に開発した装置で測定しました。さらに、大型放射光施設SPring-8 のビームラインBL02B1 においてダイヤモンドアンビルセルを用いて測定した高圧X 線回折により、結晶構造の圧力変化を調べました。その結果、比熱の温度変化から求めたラットリングを引き起こすのに必要なエネルギーが、加圧すると低下することが分かりました。このことは、加圧によりS 原子がCu 原子に及ぼす化学的圧力が高まると、より低いエネルギーでラットリングが起こることを示しています。また、その結果と結晶構造の圧力変化とを詳細に検討した結果、ラットリングの起源として(a)のモデルが妥当であることが証明されました。

本研究の成果は、令和2 年9 月9 日にアメリカ物理学会の学術誌Physical ReviewB の速報版であるRapid Communications のオンライン版に掲載されました。