月や火星の有人探査や宇宙での長期滞在に向けた宇宙開発を進める上で、様々な生命科学分野の研究も不可欠です。これらの研究は、宇宙放射線や異なる重力環境に対する宇宙飛行士の順応や、長期滞在に伴う食糧生産などの課題解決に資するものです。また、骨密度の低下や筋の萎縮、代謝の変化など、地上で人体に起きる老化に関連した変化と類似した現象が宇宙で起きることが、宇宙飛行士や生物を対象とした研究で明らかにされており、生命科学研究にとって、宇宙研究は、地球での健康維持にも応用可能な、新しい分野として認識されつつあります。
このような研究には、各国の宇宙機関が主導する様々な実験の結果を集約・共有し、データを総合的に解析することが大切です。そこで、宇宙生命科学実験に携わる研究者が集まり、実験やデータ取得の方法を統一化するための国際的なコンソーシアム「International Standards for Space Omics Processing(宇宙オミックス解析の国際標準、ISSOP)」が結成されました。この組織には、米国、欧州をはじめ、日本も参加します。その中で筑波大学は、これまでゲノミクス解析分野での微量サンプルの解析技術や実験自動化を通してオミックス解析を先導しており、このようなデータを活用する日本国内の研究者の代表としての役割を担うとともに、これまでの宇宙生命科学の進展とISSOPの活動を紹介する総説を発表しました。ISSOPの枠組みを基盤として、国際的な研究者のネットワークによる精度の高いデータ解析が行われることで、深宇宙の有人探査を目指す研究のスピードアップが期待できます。