軽運動が育むメンタルヘルス 〜発育期の低強度運動は統合失調症様の行動異常の発症を抑制する〜

統合失調症は重篤な精神疾患の一つです。未だ根本的な治療方法は確立されていないことから、予防戦略開発が求められています。統合失調症は出産前後に生じた神経発達障害(発症脆弱性)に思春期以降ストレス等が加わって発症すると考えられており、発育期の環境の改善による予防効果が検討されてきました。運動は心の健康(メンタルヘルス)の増進に有益であることから、発育期の運動習慣が精神疾患対策に有用であると期待されますが、実際に発症を予防するかどうかは不明でした。

近年、ヨガやジョギングなど軽い強度の運動(低強度運動)でも脳の前頭前皮質の機能を高めることが明らかとなりました。前頭前皮質は注意や集中など高次の認知機能(実行機能)を司る脳の領域で、統合失調症ではその機能が低下すると考えられています。

本研究では、統合失調症モデルマウスに、発育期に相当する期間に低強度運動を課すことで統合失調症様の行動異常が抑制できるかどうか、さらにはモデルマウスで低下した前頭前皮質の機能が改善するかどうかについて検討しました。その結果、発育期に低強度運動を4週間課すことにより、行動異常がほぼ完璧に改善されました。また、モデルマウスの前頭前皮質では細胞内の情報伝達に異常がみられましたが、運動により正常化することを見出しました。

今後、本研究成果を手がかりとして、統合失調症の発症予防につながる運動療法の開発に向けた新たな研究が加速することが期待されます。