移植片対宿主病は、血液悪性疾患の治療で行われる骨髄移植の副作用で、ドナー骨髄細胞がレシピエント臓器組織を攻撃することで起こります。慢性化すると皮膚が硬くなり(線維化)、患者のQOLを低下させます。この症状は、炎症後のリモデリング(組織の再構築)と考えられてきましたが、詳細は不明です。
本研究では、慢性移植片対宿主病では、急性の場合と比べ、表皮を構成する角化細胞において、線維化を誘導するサイトカインの一つであるトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)が強く発現していることを見出しました。疾患モデルマウスでは、皮膚内に広がるドナー細胞傷害性T細胞が角化細胞死を誘導し、ヒトと同様にTGFβを強発現して、皮膚線維化が惹起された一方、インターフェロンγ(IFNγ、炎症を促進するサイトカイン)欠損ドナーT細胞では線維化は起きません。そこで、培養角化細胞に様々な形態の細胞死を誘導したところ、プログラムされた細胞死であるアポトーシスに陥った角化細胞からTGFβが最も多く産生され、この産生はIFNγ添加により増強されました。
このことは、角化細胞が、アポトーシスに陥る際にIFNγの刺激を受けて線維化を誘導する細胞であることを示唆しています。皮膚粘膜疾患には、線維化が進むものとそうでないものがあり、本研究結果に基づくと、その違いを、角化細胞がアポトーシスに陥ることと、IFN-γの豊富な環境にあることの2つの条件が揃うかどうかで説明することができます。本研究成果から、皮膚線維化を起こす一群の皮膚粘膜疾患に対する特異的な治療法の開発が期待されます。