カワゲラ類の基本形は「薄い」卵殻構造である 〜従来の進化体系を覆す新たなシナリオ〜

カワゲラは、成虫は陸生ですが、幼虫は水生で良好な水環境に生息することから、水質の指標生物として重要な昆虫です。分類学上、カワゲラ目は主に北半球に生息するキタカワゲラ亜目と、南半球にのみ生息するミナミカワゲラ亜目というように、地理的に大きく2つに分けられます。これらの系統学的議論を深めることは、カワゲラ目が所属する多新翅類だけでなく、昆虫全体の進化を理解する上で重要な役割を果たすと考えられます。しかしながら、研究対象の主流はキタカワゲラ亜目に偏っており、ミナミカワゲラ亜目に関する詳細な研究はほとんど進んでいません。

カワゲラ類の卵殻には、種によって「厚い」ものと「薄い」ものがあります。今回の研究では、ニュージーランド産のミナミカワゲラ亜目3科5種のカワゲラの卵について、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡を用いた観察を行い、詳細な構造を解明しました。その結果、カワゲラ類の卵殻は、これまで考えられていたこととは異なり、「薄い」ものが基本形であることが分かりました。

さらに、カワゲラ類の卵は、水中で基質に接着することが知られていますが、その接着構造の詳細を、ミナミカワゲラ亜目について解明しました。得られたデータを、キタカワゲラ亜目の接着構造と比較検討し、カワゲラ類の卵の接着構造は、それぞれの亜目で独立に獲得されたものであることを示しました。

本研究成果は、ミナミカワゲラ亜目の卵構造の詳細を、世界で初めて明らかにしたものであり、カワゲラ類のみならず、昆虫全体の系統進化学的な議論の進展に大きく貢献すると考えられます。