二重課題運動は高齢者の身体機能や認知機能を向上させる可能性がある

日本の認知症有病率は先進国35ヵ国中で最も高い数値を示しており、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると推定されています。しかし、認知症を完全に治す治療法は確立されていません。従って、その発症を事前に防止すること、すなわち、健常な認知機能を長く保持する「低下の抑制」が重要です。

加齢に伴い、身体機能や認知機能は確実に衰えていきますが、運動を行うことにより、身体機能や認知機能を維持したり、一時的に向上させたりする可能性があることが報告されています。そこで、運動課題と認知課題の二つの課題を同時に行う二重課題運動に注目し、その有効性を検証しました。

本研究では、高齢者でも無理なく楽しめる二重課題運動の一つ「シナプソロジー®」と呼ばれる運動プログラムを用い、高齢者24名(平均年齢70.6歳)を対象に、二重課題運動を実施する群(実施群)と実施しない群(対照群)とに無作為に分けて、比較検証を行いました。実施群には8週間にわたり、週2回(60分/回)の頻度で二重課題運動を行わせた後に、身体機能と認知機能を定量的に評価したところ、いずれの機能も有意に向上しました。一方、運動を実施しなかった対照群では、これらの機能に有意な向上は見られませんでした。以上の結果より、二重課題運動の実践は、高齢者の身体機能や認知機能を部分的に向上させる上で有効である可能性が示唆されました。