微生物は、細胞膜と同じ成分からなる多様な小胞(膜小胞)を細胞外に放出することが知られており、近年、それらの膜小胞が、医療やバイオテクノロジーをはじめとする様々な分野に応用できる可能性を秘めていることが明らかになっています。しかし、膜小胞の多様性が生じる仕組みについては、いまだに多くの謎が残されています。特に、病原性の高い結核菌などが含まれる「ミコール酸含有細菌」と呼ばれる菌群が作る膜小胞は、病原性に関わる重要な機能を持つことが報告されていますが、それらの膜小胞ができる仕組みは未解明のままでした。
本研究では、ミコール酸含有細菌が、自らの置かれた状況に応じて、様々な組成の膜小胞を作り分ける仕組みを明らかにしました。ミコール酸含有細菌の中でも無毒株として知られるコリネ菌に、いくつかの異なるストレスを与えたところ、①DNAの複製が阻害された時、②細胞壁の合成が阻害された時、③細胞膜の合成に必須なビオチン(ビタミンの一種)が少なくなった時、の三つの場合に膜小胞が放出されることが明らかになりました。それぞれの場合で、作られる膜小胞の構造や化学的な組成は異なっており、かつ微生物由来の膜小胞としては非常にユニークな特徴(入れ子構造や鎖状構造)を有していました。また、同様の仕組みは、コリネ菌以外のミコール酸含有細菌にも保存されていることが分かりました。
このような、微生物が膜小胞を作り分ける仕組みに関する知見は、膜小胞由来の安全なワクチン開発などにも役立つことが期待されます。