現在の海洋中のCO2濃度は、サンゴや大型海藻の海中林などの生物体が、海底で複雑な三次元的構造(構造的複雑性)を作り出すのに適しており、それによって高い生物多様性が保たれています。一方、CO2濃度が高くなり海洋が酸性化すると、生物群の構成が変化する過程(遷移過程)の初期段階において、環境の変化が激しい場所でも多くの子孫を残す生存戦略をとる、微細藻や小型の藻類(日和見種)が増え、他の大型藻類の加入が阻害されます。そのため、生態系における種の多様性は低いままとなり、構造的な複雑性を持つことができません。構造的複雑性は、様々な生物資源を創出するなど、生態系の機能的側面を支えており、その喪失は、人類が享受する生態系サービスの劣化を意味しています。
本研究では、海洋中の異なるCO2濃度の環境間で生物群集の移植実験を行い、小型藻類が優占していた高CO2環境下の生物群集を、現在のCO2濃度レベルの環境下に移植したところ、数ヶ月程度で、大型藻類を主体とする群集に変化することを見いだしました。このことは、適切にCO2を削減すれば、生物多様性の停滞が解除され、生態系が回復できることを示しています。海洋酸性化が生物群集を変化させるメカニズムを明らかにすることにより、海洋酸性化に対する生態系の管理が可能になると期待されます。