体内のマンノース濃度を保つ仕組みを解明〜進化の過程で選択された糖代謝経路〜

代表者 : 川西 邦夫  

シアル酸は細胞の表層を覆う糖鎖の末端に位置し、細胞間認識や微生物との相互関係に関わっています。哺乳類が糖鎖合成に用いるシアル酸にはNeu5AcとNeu5Gcがあり、ヒトは進化の過程でNeu5Gcを合成する酵素(CMAH)を失いました。しかし牛肉や豚肉などの赤身肉に含まれるNeu5Gcはヒトの糖鎖に一部組み込まれ、血中の抗Neu5Gc抗体による炎症を生じます。そのためNeu5Gcは動脈硬化や大腸癌などの疾患との関連が注目されています。一方、魚類の糖鎖から発見されたシアル酸Kdnは、当初、ヒトを含む哺乳類には存在しないと考えられましたが、糖鎖合成に必須であるマンノースの代謝産物として産生され、前立腺癌などの悪性腫瘍組織にも含まれることなどが分かってきました。

本研究では、シアル酸と腎不全の病態との関連を調べるため、血液透析患者の血液を分析したところ、Kdnが蓄積していることを見いだしました。さらに、血液透析患者の血中では、Kdnが健常者の約6倍に上昇するものの、マンノース濃度は基準値付近に保たれること、健常者では過剰なマンノースがKdnに代謝され、尿中に排泄されることを明らかにしました。また、マンノースを付加した培養細胞を分析すると、遊離型のKdnは産生されても、糖鎖に組み込まれるKdnはごくわずかであることを明らかにしました。

さらに、マンノース代謝に関連する酵素群の遺伝子配列の分析により、ヒトを含む脊椎動物では、進化の過程で、過剰なマンノースを無毒化し、突然変異を排除するような自然選択(純化淘汰)が行われたことが示唆されました。