光による“ひずみ波”の伝搬で固体相転移が進行することを発見 ―Swiss-FEL 初の時間分解X 線粉末回折測定のパイロット実験で明らかに―

代表者 : 所 裕子  

東京大学大学院理学系研究科の大越慎一教授、筑波大学数理物質系の所裕子教授は、レンヌ大学物理学教室のセリーヌ マリエット博士、マチェイ ロラン博士、マルコ カマラタ博士らと共同で、フランスCNRS 国際共同研究所IM-LED(注1)の国際共同研究の一環として、金属酸化物で唯一、室温で光誘起相転移を示すラムダ型-五酸化三チタン(λ-Ti3O5)(注2)の光誘起相転移に関して研究を推進しています。今回、スイスX線自由電子レーザー施設(Swiss-FEL)(注3)の超高速X線粉末回折実験(時間分解能:500 fs)により、光照射によってTi3O5結晶中の構造が500フェムト秒(fs)で変形し、光が照射されたTi3O5表面から結晶中をピコ秒オーダーで伝搬するひ
ずみ波によって、相転移が進行することを初めて観測しました。弾性体モデル解析により、ベータ型-五酸化三チタン(β-Ti3O5)(注4)からλ-Ti3O5への相転移は、伝搬する“ひずみ波”の進行と同時に16 ps(ピコ秒)までの間に起こり、熱拡散による相転移(~100 ナノ秒)よりも桁違いに早いことが明らかになりました。このようなひずみ波伝搬による相転移現象の観測は初めてです。ひずみ波をメカニズムとする相転移は、他のさまざまな固体物質においても適用できる可能性が高いと考えられます。

なお、本研究は、EU 大型施設Swiss-FEL の初の時間分解X 線粉末回折パイロット実験として観測された貴重な実験データであり、最新のX線自由電子レーザー(XFEL)光源を用いれば、原子の動きや格子歪みの伝搬をフェムト秒スケールのリアルタイムで調べることが可能であることを実証しました。