幼若期以降の神経細胞におけるタンパク質リン酸化酵素の遺伝子変異が眠気を増強する

代表者 : 柳沢 正史  

徹夜をした翌日は、深く長い眠りが必要です。それは、個々に必要な睡眠時間が決まっており、不足度合いによって睡眠の深さや時間を調節する「睡眠恒常性維持機構」が存在するためです。睡眠の恒常性に関しては、神経細胞内のリン酸化酵素SIK3の遺伝子に生じた「Sleepy変異」が、睡眠の時間と深さの両方を増加させることが分かっており、このことから、SIK3が睡眠の恒常性維持に重要な役割を担っていることが示されています。しかし、この実験で使われたSleepy変異マウスは、生まれる前から全身の細胞にSleepy変異が存在しています。このため、Sleepy変異が、直接的に睡眠の制御に関わっているのか、あるいは、胎児期の脳の成長や末梢臓器の機能に及ぼす影響によって睡眠が変化するのかは、不明なままでした。そこで本研究では、出生後の神経細胞のみにSleepy変異を誘導できるマウスを新たに作成し、睡眠覚醒行動を調べました。その結果、生後神経細胞にSleepy変異が生じた場合でも、睡眠の時間と深さが増加しうることが明らかになり、神経細胞内のSIK3が睡眠の恒常性制御に直接的に関与していることが分かりました。

脳には、領域や神経回路ごとに異なる機能があります。今後さらに、Sleepy変異が生じることによって睡眠時間を増加させる脳領域をさらに絞り込み、睡眠の恒常性制御を担う脳神経回路の解明を目指します。これにより、睡眠薬や睡眠障害治療のターゲットとして重要な脳領域の発見につながることが期待されます。