コロナ時代の人の国際移動・移住に関する研究基盤の整備 情報のデータベース化と支援のオンライン化を推進 | 明石 純一

代表者 : 明石 純一  

明石 純一 Akashi Junichi

グローバル化時代に発生した新型コロナウイルスのパンデミックは、かつてない規模と期間で、国境を越える人の移動・移住に影響を及ぼしています。私たちは、感染者が多いものの情報が得にくい国や地域の国境・出入国管理の情報を含め、移民研究者の研究基盤となるデータベースを構築しています。また、国内の移民二世の子どもたちに対する支援のオンライン化を試みています。

多言語の情報や報道を収集

新型コロナウイルスのパンデミックの発生に伴い、多くの国が入国制限を実施しました。入国を一切禁止する、あるいは一定の条件の下で入国を許可する、といった制限の程度や、対象地域は国によって異なります。また、同じ国でも国内外の流行状況によって変化します。

欧米を中心に先進国については、時々刻々と変化する出入国管理の様子を政府の情報発信やメディアの報道で詳細に追うことができます。実際、複数の研究者がすでに欧米諸国の出入国関連施策の動向を調べています。一方、欧米以外の国々については、言語の壁もあり、状況やその推移を把握することが容易ではありません。

そこで私たちは、世界でもとくに感染者が多いインドや中米諸国の国境・入国管理関連の動きを追いました。収集したのは、調査対象の国々の政府発表や新聞など現地のメディア報道が中心です(図1)。また、新型コロナウイルス感染症とマイグレーションに関する様々な調査結果や提言も同時に収集、公開しており、随時、データ・情報を更新しています。

 

番号 136 パナマ・キューバ
Periódico Cubano(キューバ紙)(2020年11月20日付)「Cubanos con visas vencidas entre marzo y diciembre sí podrán ingresar a Panamá」
場所 URL https://www.periodicocubano.com/cubanos-con-visas-vencidas-entre-marzo-y-diciembre-si-podran-ingresar-a-panama/
要約 パナマ移民局(SNM)は2019年3月13日から12月31日までの期間に有効期限の切れる同国における観光ビザを保有している、パナマ国外にいるキューバ人に対し、その有効期間を2021年1月31日までの延長を発表した。同観光ビザの有効期間の延長を求める人々はハバナのパナマ大使館での申請と承認印が必要となる。同手続きにおいて、既に11月から12月にかけてのパナマ訪問のための航空券を入手済みの人々が優先される。在キューバ・パナマ大使館は、キューバ国内での新型コロナウイルスの感染拡大が始まった3月以降に一時機能を停止していたが、最近になって業務を段階的に再開していた。

図1 データベースに含まれる情報の一例。公開当初のデータベースには約200件登録されている。順次、数を増やしていく計画である。

 

移民二世の支援に動画も活用

収集した情報や国内でのヒアリングから、感染拡大前にすでに他国に移住していた人たちやその家族にも、新型コロナウイルスによって大きな影響が出ていることがわかりました(図2)。

その中で、移民二世には、言葉の壁などにより十分な教育機会が提供されず、本人のキャリア形成に明るい展望を持てない子どもが少なからずいます。私たちは、国内の移民二世の中高生を対象に、自分の能力に対する自信を培う課題設定や、ロールモデルとなる先輩たちとの対話の機会創出などを通じて、移民の背景をもつ若者が前向きな将来像を描くことができるよう10年来に渡り支援を続けてきました。

コロナ禍では、休校や感染対策(ソーシャルディスタンスの要請)で同級生との会話が減るなどにより日本語習得の機会が減ってしまい、進路への悪影響が懸念されます。一方、対面型の直接支援の実施、子どもたちや支援者を一つの会場に100人規模で集める従来型のセミナーの開催は困難です。そこで今回は手始めに、先輩たちのキャリアに関する体験談やメッセージを動画にまとめ、対象者に届けることにしました。従来は、県内の子どもたちに限定されていましたが、こういう形であれば、全国からの要望に応えることもできます。ただし、従来型の支援との効果の違いは、今後きちんと検証する必要があります。検証を踏まえた上で、二世の子どもたちだけでなく、国際移住者全般に対するウィズコロナ時代の支援の新しいあり方について検討していきたいと考えています。

図2 新型コロナウイルスは、留学や就労など様々な目的で、すでに他国に移住している人々にも大きな影響を与えている。

 

明石 純一(筑波大学 人文社会系)
Project Name / コロナ時代の人の越境をめぐる政策と技術

(取材・執筆:大岩 ゆり サイテック・コミュニケーションズ / ポートレート撮影・ウェブデザイン:株式会社ゼロ・グラフィックス)

ー さらに詳しく知りたい方へ ー
●アジアと中米の国境・入国管理データベースのHP
https://www.globalmigration-net.com/fight_covid19/
アジアや中米の一部の国の国境・入国管理に関する情報が、図1で紹介したような形式で登録されています。
また、COVID-19と人の国際移動・移住に関する論文や報告書などの文献リストを作成中です。移民研究に役立てていただくことを期待しています。

●コロナ禍の国際移住者に関するセミナー情報
https://www.globalmigration-net.com
今後のセミナーの開催情報はこちらからご覧いただけます。

●二世の子どもたちに向けた先輩たちの体験談・メッセージ動画(明石 純一 研究室)
https://www.globalmigration-net.com/fight_covid19/
研究室ウェブサイトの動画にご関心のある方は、研究室の CONTACT からお問い合わせください。

●OECD「International Migration Outlook 2020」
https://www.oecd-ilibrary.org/sites/ec98f531-en/index.html?itemId=/content/publication/ec98f531-en
OECD加盟国の国際的な人の移動の統計、傾向分析がまとめられています。

 

Collaborators

大茂矢 由佳(国際日本研究学位プログラム)
Omoya Yuka, Doctoral Program in International and Advanced Japanese Studies

金井 達也(国際日本研究学位プログラム)
Kanai Tatsuya, Doctoral Program in International and Advanced Japanese Studies