密にならずに集える形をデザインする 「Mobi-tecture」で自分好みの場と活動を作ろう | 渡 和由

代表者 : 渡 和由  

渡 和由 Watari Kazuyoshi

コロナ禍でソーシャルディスタンスが求められる一方、“集い”は人々に喜びをもたらしてくれる側面もあります。そこで私たちは、自由に持ち運びできる「Mobi-tecture」(小型構造物)を用いて、密にならずに公共空間を共有する方法を考案しました。実践事例からは、参加者が物理的な距離を保ち、個別に活動しながらも、“集い”の充実感が得られることを確認しています。このような「プレイスメイキング」(主体的な選択による居場所作り)は、コロナ禍による息苦しさを感じる日常においても、小さな発見や感動をもたらしてくれる効果的な手法です。

移動して、組み立てて、自分のための“場”を作る

コロナ禍によって、人々は外出や会食の自粛といった行動制限を強いられ、場所と目的を共有する“集い”の機会も著しく減りました。様々な自由を奪われて息苦しさを感じる日々ですが、「プレイスメイキング」によって、日常的に自分なりの心地よさを発見できれば、このようなストレスの軽減にもつながると考えています。

「プレイスメイキング」は、公共空間に1人ひとりが居場所(プレイス)をつくる手法のひとつです。例えば、同じ公園を利用する親子であっても、広場で遊びたい子供と、日陰を好む母親というように、各人が求める場所は異なります。そこで私たちは、公共の環境資源(図1)を主体的に利用しながら、それぞれが、それぞれの、心地よさや楽しさが得られて共存できる枠組みについて、実践を通した研究を行っています。

図1 環境資源を活かすプレイスメイキングの主要な「8つの場要素」と、ブライアントパーク(ニューヨーク市)にある場要素の例。普段の見慣れた場所も、プレイスメイキングによって新しい価値が生まれる。例えば、カリフォルニア州シリコンバレーにある駅近くの路上レストランは、付近にあるIT企業や大学から人々が集まってくるので、飲食を媒体にした創造的な交流の場になっている。また、巨大IT企業などでは、仕事場を固定せず、「プレイスメイキング」に適した庭やフリースペースを充実させて、心地よい空間でクリエィティブな発想や才能を育てようとしている。

 

分散が求められるコロナ禍においても、プレイスメイキングを促進するツールとして、私たちは組み立て式の「Mobi-tecture」(小型構造物)を考案しました。このツールは、自らの主体的な行動を促すため、女性が1人でも持ち運べる軽さで、好きな場所で組み立てて設置できる、手軽なものであることが重要です。

そこで、量販店で簡単に手に入る既製の木製棚を組み合わせた「棚場オフィス」を作製し、実際に公園やキャンパスに持ち込んで使ってみました(図2)。この実践事例では、参加者が距離を保ちながら、独立して活動する一方、複数で“集う”安心感が、快適さにつながるという発見もありました。また、このような可搬型の家具は屋外だけではなく屋内でも使えるし、物理的な遮蔽を伴う構造物は感染予防に有用という側面もあります。

図2 公園に設置した「棚場オフィス」と「縁側セット」。各人の目的と感性により、ほぼ閉鎖型から完全な開放型まで、異なるタイプのオフィスが設置された。各人の活動の合間には、縁側セットを介した交流も行えた。

 

特別な構造物がなくても、間伐材の丸太をロープなどで好きな形に固定して、落ち着く場所を作りだすこともできます(図3A)。さらに、筑波大学キャンパス内のカフェの空き地に、丸太などの素材を置いてプレイスメイキングを試みたところ、密になることなく、それぞれが快適に時間と空間を共有できました(図3B)。

図3(A)森でプレイスメイキングを行った様子。1人で丸太を運んで組み立て、ピクニックと食事の後に持ち帰る。(B)カフェの空き地を利用したプレイスメイキング。それぞれが気に入った場所に分散してコーヒーを楽しんだ。普段の見慣れた場所、キャンパスのちょっとしたスペースもプレイスメイキングで上手く使えば、活発な議論の場にもなる。(協力:サザコーヒー 筑波大学アリアンサ店)

 

地元の「ながら材」丸太を使った実践からは、天然素材の手触りや香りが心地よさや安らぎを生み出し、プレイスメイキングが促進されることも確認できました。そこで、3Dプリンターを利用して、木の質感を再現した小型構造物の組立構造の実証実験を行いました。さらに今後は、センシング技術なども取り入れて、プレイスメイキングの効果を評価したいと考えています。

これからの時代に求められるまちづくりを考える

現在、UR都市機構と共同で、プレイスメイキングの手法を用いたまちづくりを計画しています。3密を避ける「新しい生活様式」の影響で、人々の活動は分散化しつつあります。この流れを受けて、アフターコロナの社会では、都市環境のあり方も変化していくでしょう。時間と空間の使い方が、より個人に委ねられる時代になり、日常の風景を楽しく芸術的に彩る「プレイスメイキング」は、活動的な都市環境づくりの鍵になると考えています。

渡 和由(筑波大学 芸術系)
Project Name / 活動と可動用具による生活環境と社会距離を活かすプレイスメイキング

(取材・執筆:那須川 真澄 サイテック・コミュニケーションズ / ポートレート撮影・ウェブデザイン:株式会社ゼロ・グラフィックス)

ー さらに詳しく知りたい方へ ー
●UR都市機構 プレイスメイキングから考えるまちづくり
https://www.ur-net.go.jp/aboutus/action/placemaking/machiindex.html
中間とりまとめ記者発表内容本冊(2019年度版)。今年度中に改訂版が、UR都市機構ウェブサイトのホームページで公開されます。
https://www.ur-net.go.jp/aboutus/action/placemaking/lrmhph0000009251-att/PLACEMAKING_HONSATSU_20191115.pdf

●官能都市のデザインとプレイスメイキングエモーショナル環境がつくる魅力価値
https://www.homes.co.jp/search/assets/doc/default/edit/souken/PDF2015/sensuous_city_08.pdf
プレイスメイキングの取り組みについて米国の事例を中心に紹介。

 

Collaborators

大竹 英理耶
Otake Erika, Doctoral Program in Art and Design, Graduate School of Comprehensive Human Sciences

厚見 慶
Atsumi Kei, Master Program in Art and Design, Graduate School of Comprehensive Human Sciences