高用量のオレキシン拮抗薬投与がナルコレプシー症状を誘発する

代表者 : 柳沢 正史  

オレキシンは1998年に発見された神経ペプチドです。過眠症の代表疾患であるナルコレプシーとの関連から、覚醒を制御する作用が見いだされ、現在、オレキシンの拮抗薬が睡眠薬として上市されています。この拮抗薬には、オレキシンの覚醒機能を弱め睡眠へ導入する効果がありますが、情動脱力発作(カタプレキシー)や金縛り、入眠直後のレム睡眠など、ナルコレプシーの症状を引き起こす可能性も含んでいます。

 

本研究では、オレキシン拮抗薬を投与する際、どのような用量・用法下で、情動脱力発作や入眠直後のレム睡眠を引き起こすかを、マウスにおいて検討しました。

 

その結果、ヒトでの用量の250〜1000倍の高用量でオレキシン拮抗薬を1週間にわたって投与した後、1週間休止し、再び投与した場合に、情動脱力発作が起こることが分かりました。また、情動を刺激するために、好物のチョコレートをエサとして与えると、この症状はより顕著になりました。これらのマウスでは、高用量の拮抗薬投与で、脳内でのオレキシンの遺伝子発現とペプチド濃度の減少が確認された一方で、オレキシン2型受容体の遺伝子発現の増加が、長期にわたって見られました。これは、投与休止期間を設けたことで、受容体の感受性が増し、再投与時に発作が起こりやすくなったためと考えられます。

 

このようなオレキシン拮抗薬高用量投与や急な断薬および再投与は、実際の患者に処方する用量・用法とはかけ離れています。従って、オレキシン拮抗薬の内服によって情動脱力発作が起こるとは考えられず、その点での安全性は確認されたといえます。