代表者 : 八木 勇治
地震破壊はしばしば、折れ曲がりや分岐、途切れを含む断層帯で発生します。断層のこのような不連続性により、地震時の破壊過程は複雑になります。理論的な研究でその振る舞いの理解が進められる一方、実際の観測データから地震破壊の複雑な実像を捉えるのは困難でした。そもそも、実際にどのような複雑な破壊過程が存在するのかについては、いまだによく分かっていません。
本研究チームは、地上で観測された地震波形データから、地震時の断層形状と破壊過程を同時に推定する新しい地震破壊過程解析手法を開発しています。本研究では、この解析手法を2018年にアラスカ湾の海洋プレート内で発生したマグニチュード (M) 7.9の巨大地震に適用しました。その結果、断層すべりが間欠的に加速・減速する様子を捉えることに成功しました。
断層すべりは、主に海洋底に発達する複数の破砕帯近傍で起きていましたが、スムーズに破壊が伝播することなく、加速と減速を繰り返していました。破壊の伝播方向が時間によって変化していく様子も、解析結果から判明しました。これらの奇妙な破壊伝播様式は、海洋底に発達する破砕帯や断層の不連続性が、スムーズな破壊進行を妨げた可能性を示唆しています。
本研究により、2018年アラスカ湾地震の破壊過程は、間欠的な加速と減速を繰り返す、従来の想像をはるかに超える複雑性を持つことが分かりました。今後、アラスカ湾のみならず、他の地域の海洋プレート内で発生した地震にも本手法を適用することで、地震破壊の隠された複雑性や海洋底の構造と地震破壊のさらなる関係が明らかになることが期待されます。