代表者 : 佐藤 忍
帝京大学理工学部バイオサイエンス学科准教授 朝比奈雅志、同博士研究員 松岡啓太(研究当時)、佐藤良介、神戸大学大学院理学研究科准教授 近藤侑貴、筑波大学生命環境系教授 佐藤忍らの研究グループは、植物が持つ高い自己治癒力の仕組みの一端を解明しました。茎を傷つけると、切断部の周辺の細胞が分裂を開始し、傷害を受けた組織が再生・癒合することで機能が回復します。この性質は、果菜類や果樹などで接ぎ木として利用されています。今回、帝京大学・神戸大学・筑波大学の共同研究グループは、傷ついたシロイヌナズナの花茎では、傷によって蓄積したオーキシンによって誘導されるANAC071・ANAC096 と呼ばれる転写制
御因子が働き、茎の内部にある木部や髄組織の柔細胞と呼ばれる細胞から、維管束幹細胞として働く形成層細胞に似た性質の細胞が誘導されることを明らかにしました(図1)。本研究では、この現象“cambialization”(形成層の英語名“cambium”に由来)と呼んでいます。さらに、ANAC071・ANAC096 とその類似遺伝子であるANAC011 遺伝子を同時に欠損した植物体では、通常の生育には影響が見られないものの、傷を付けた茎では“cambialization”が抑えられていることがわかりました。これらのことから、これらの遺伝子の機能は、移動できない植物が傷害に対する自己治癒力を向上させるために獲得した生存戦略のひとつである可能性が考えられます。
この研究成果は、2021 年3 月19 日付けでNature Research 社が提供するオープンアクセス・ジャーナル「Communications Biology」に掲載されました。